なぜ上杉謙信は「軍神」と呼ばれたのか

ところで上杉謙信は、合戦に臨むに際して、居城・春日山城の奥にある毘沙門堂にこもって戦勝の祈願を行った。毘沙門は北方を守護する四天王のひとりだ。その声を聞き、軍配を執った戦いはほとんど負け知らず。越後が、京から見て北に位置することから、謙信は「われを毘沙門天と思え」と周囲を鼓舞した。

やがて、家臣たちもそれを信じたのだから、そのカリスマ性はすごいというほかない。これは、イメージ戦略のようなもので、謙信が非常にストイックな生き方をし、欲得にまみれていないから、軍神としての位置づけが可能になったのだろう。

また謙信の強さは、自由な精神にあったと思う。誰もが常識や欲に支配されることで不自由になるものだが、自分に素直に生きた謙信はそれと無縁な存在で、力を存分に発揮できたのではないか。

いま、ビジネスパーソンが上杉謙信から学ぶべきことは“信念”を持つということにほかならない。加えて、明確なビジョンをはっきりとさせ、自己実現をめざすのである。ただし、それは個人の栄達ではなく「誰かのため」という幅広さが必要だ。会社をひとかたまりの岩だとすれば、自分はその一部となって、岩全体を維持していくという気概を持つことである。

最後に、48歳で世を去った謙信の辞世の句を紹介しよう。それは「四十九年一睡の夢一期の栄華一盃の酒」というものだ。いかにも酒好きだった彼らしい。自分の人生などひと眠りの間に見た夢のようにはかない。人の一生の栄華など一杯の酒にすぎなかったというものだ。悟りにも通じる心も謙信にふさわしい。

▼上杉謙信に学ぶべきポイント
1:常識や欲に支配されずに力を存分に発揮する
2:ライバルに対して感情にとらわれない選択をする
3:信念と明確なビジョンで自己実現をめざす

童門冬二(どうもん・ふゆじ)
歴史小説家
東京都企画調整局長、政策室長などを歴任し、1979年に作家として独立。著書は『小説上杉鷹山』『異説新撰組』『小説二宮金次郎』『小説立花宗茂』など多数。
 
(構成=岡村繁雄 写真=iStock.com)
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