「罰金刑ならず」……人生復活プランが狂った被告人
「では、いまからすぐ判決の言い渡しをしたいと思いますが、よろしいですか」
時計は12時を回っていたが、裁判長は即日判決するという。裁判所に来るための交通費にも困っている被告人の事情を考えてのことだろう。
「主文。被告人を懲役8カ月に処し、3年間の執行猶予とする」
罰金刑、ならず。ぼうぜんとたたずむ被告人に裁判長が語りかける。
「なぜ罰金刑ではないのか説明しますね。今回の事件は、一度罰金刑を受けた後の事件だからです。2度の無免許運転発覚ということで、裁判所としては罰金刑ではすまないと判断しました」
被告人に同情はするけれど、ルールには従ってもらいます。そういう判決だ。僕は中盤以降、裁判長が身を乗り出すように被告人の話を聞いていたのを知っている。おそらく個人的には罰金刑にしてあげたい気持ちがあっただろう。でも、そうはせず、シビアな判決を出した。
▼なぜ、裁判官はシビアな判決を下したのか
僕は判決を聞いてガッカリしたし、被告人の将来を案じてしまったが、しばらくしてその考えを改めた。やはり、これは妥当な判決だったのだ。
なぜなら、そもそも裁判長がその場の気分で判決を下していいはずがないからだ。今回の場合は温情判決になるけれど、被告人の態度が気に入らないから重い判決を下す。そんなことが許されてはならない。裁判では法律が何より重視され、判例という判決の“相場”もある。
しゃくし定規がいいとは思わないが、同じ罪状でも裁判長によって判決が違うのはやはりマズい。ルールは裁判長の暴走を防ぐ役割も果たしているのだ。