金融危機から学んだ人、学ばない人

ただ、ここにまったく問題が生じないわけではない。目先の利益に振り回される人は、結局、将来的に後悔する可能性が高いことが証明されている。実際に健康を害してから、あのとき禁煙しておけばよかったと考える。または、顧客に愛想を尽かされてから、詐欺的な商法を取ったことを悔やむ確率は非常に高い。当然ながら、「覆水盆に返らず」と考えるなら、やはり、時間割引率が高い人は注意を要するということになるだろう。

昨年のリーマン・ショックも、ある意味、時間割引率が高い人々による近視眼的な経営と仕事、はては日常生活の破綻がもたらしたものといえるだろう。すくなからず、後悔している人々も多いはずだ。

しかし、前述の禁煙成功者の例から考えると、一度は、目先の利益に強くおぼれたとしても、その弊害を痛感し、せっかちな性癖を見事克服した人は、もっとも時間割引率が低くなる。

だからこそ、今回の危機に何らかの形で加担してきたとしても、それが世界にもたらした負の結果から十分学び、考えを改めることができた人こそ、より長期的な利益に向かって軌道修正できる確率がもっとも高いといえるだろう。

(構成=山下 諭 撮影=川島英嗣)
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