高いデザイン性×優れたサービス力
恋する豚研究所において最も印象的なのは、デザインとサービスへのこだわりです。施設設計は建築設計事務所「アトリエ・ワン」に依頼。建築業界からたびたび視察が訪れるほど、デザイン性の高いものになっています。建物だけでなく、各種サイン、パッケージ、棚などの内装・什器なども、価値を感じる統一感のあるデザインとなっています。
さらに、サービスにおいても極めて高いレベルを維持しています。様々な方が働く施設ということもあり、作業工程を細かく分解することで、それぞれに対応したマニュアルが多数整備されています。その内容は大手チェーンストアを上回るほど精緻なものです。その結果、顧客の満足度があがり、十分な対価を得られる運営を実現しています。だから恋する豚研究所は、高い給与を支払うことができるのです。
「地方だから」「福祉だから」と言い訳をしない
地方のプロジェクトでは「地方だからありのままの地味で良い」といってデザインに配慮しないケースが少なくありません。さらに福祉などの要素を入れると「福祉だから仕方ない」といってサービスへのこだわりも低下しがちです。
しかし、恋する豚研究所は、そもそも優れた商品やサービスを提供しています。「地方だから」「福祉だから」という言い訳をせず、たまたま不便な立地にあり、たまたま障がいを持つ方々が働いているだけなのです。だからこそ地域や社会に大きな影響を与えています。
そしてこのように革新的で社会性の高い事業に取り組む職場は、若者たちからも人気です。早稲田や明治、ICUなどの有名大学を卒業し、人気企業の内定をとるような優秀な学生たちが、次々と恋する豚研究所に入社するようになっています。よく「立地が不便だから優秀な人材が集まらない」というボヤキを聞きますが、その原因は「立地が不便だから」ではなく、「そもそも事業の魅力がないから」ではないか、と考えさせられます。
農林水産業や福祉事業では、不利な条件を言い訳につかいがちです。しかし、実はまだまだできることは残されているのです。恋する豚研究所の事業は、その具体例ではないでしょうか。
まちビジネス事業家。 1982年生まれ。高校在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長に就任。05年早稲田大学政治経済学部卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。07年より全国各地でまち会社へ投資、経営を行う。09年全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)、『まちで闘う方法論』(学芸出版社)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(共著、日経BP社)などがある。