ブルゾンちえみの起用は必然だった
『ジオストーム』の配給会社は、同作の消費シーンをわかっていたからこそ、日本版主題歌にB'zのアッパーな楽曲を起用し、プロモーションに売れっ子実演販売士のレジェンド松下氏を起用し、日本語版吹き替えキャストのひとりにお笑い芸人のブルゾンちえみを起用しました。リオのビーチが凍るシーンに「海が凍り、飛行機が凍り、そして彼氏も凍った」という日本語ナレーションを重ね、視聴者の笑いを誘うTVスポットも作りました。
このようなプロモーション方針が「熱心な映画ファンに向けた作品として映画を鑑賞してもらおう」ではなく、「バラエティ番組的に消費してもらおう」なのは明らか。本作が、少なくとも日本市場においては、格好の「コスパのいい暇つぶし」として機能しうることは、配給会社自身が先刻承知であるということです。果たして、目論見通りに多くの観客を劇場に集めることができました。
ただ、このような割り切った宣伝は『ジオストーム』のような映画には合致しますが、ごくたまに悲劇を招きます。配給会社が「バラエティ番組的な消費」を目論んで宣伝を仕込んでいるにもかかわらず、その作品に興味を抱いている層が「熱心な映画ファン」を自認している場合です。
たとえば2017年8月に公開された『ワンダーウーマン』は、日本での宣伝展開時に乃木坂46を起用して「バラエティ番組的な消費」を促しましたが、一部の映画ファンから「自立的な女性主人公を描いた作品なのに、男性に媚びるような楽曲(『女は一人じゃ眠れない』)をタイアップ曲にするなんて、作品を冒涜している!」といった怒りの声が上がっていました。
とはいえ配給会社としては、そのような反発も想定内でしょう。なぜなら、彼らがいくら怒ろうとも、なんだかんだ言って彼らは『ワンダーウーマン』を観に来てくれるからです。それよりは、『ワンダーウーマン』に1mmも興味がなかった層に、「乃木坂46」で少しでも注意を引くほうが、集客の上乗せにつながります。
もちろん配給会社としては、「熱心な映画ファン」も、映画を「コスパのいい暇つぶし」扱いする客も、どちらも大事なはずです。ただ、限られた宣伝リソースを何に集中させて集客を最大化するかという話になれば、ドライなビジネス判断を下さざるをえません。『ジオストーム』がその判断によって一定の成果を挙げている以上、この手の作品は今後も引き続き作られ続けるのではないでしょうか。