閑散期の「ファースト・チョイス」になる方法
本作が「週末1位」をとった理由として、映画興業の閑散期である1月後半に公開されたことも重要です。
配給会社は繁忙期であるゴールデンウィーク(4月後半公開)や夏休み(7月公開)、正月興行(12月公開)に合わせて超大作を仕込み、子供たちが春休みに入る3月には売れ線のキッズ作品を仕込みます。逆に、正月興行が一段落した1月後半~2月や秋口は閑散期です。
映画館の数やスクリーン数は決まっていますから、出演俳優や監督の知名度が低く、ベストセラー原作もなく、人気シリーズの最新作でもない『ジオストーム』は、何本もの超大作が多くのスクリーンを占有する繁忙期には、十分な公開館を確保できません。チケット売上で生計を立てている劇場側が「より確実な集客を見込める」作品に多くの館を空けるからです。だからこそ、閑散期である1月3週目の週末に公開されました。
それに、無理に繁忙期に公開できたとしても、集客が最大化できないのは目に見えています。なぜなら、人が映画館に行く頻度やタイミングは限られているからです。1ヵ月に何度も映画館に足を運ぶ人は、よほどの映画好きです。「映画が趣味」という人でも月1~2回でしょう。興収を稼ぐためには、この「月1~2回」に選ばれなければいけません。
興行界には「ファースト・チョイス」という概念があります。今この瞬間に公開されている映画の中で、「最初に選ばれる作品」になるためにどうすればいいか、という話です。『スター・ウォーズ』のような大人向けの強力な作品が公開されている時、他の大人向け作品は「ファースト・チョイス」になりにくいので、公開日をなるべくずらします。『ドラえもん』のように強力なキッズ作品が公開されている時、同様に他のキッズ作品は公開日をずらします。
『ジオストーム』が閑散期公開なのは、与えられた条件下で最大の集客を得るための、当然の方法なのです。1月3週目の週末というのは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』をはじめ、他の有力なお正月映画の初動の勢いが落ちてくる絶好のタイミング。ここに『ジオストーム』はうまく潜り込み、見事1位となりました。
『ジオストーム』の初動の数字(初日3日間で約3億円)から考えると、最終的な興収がメガヒットの域に達する可能性は低いですが、それでも1位は1位。言葉は悪いですが、うまく「繰り上げ当選した」と言えるのです。
「コスパのいい暇つぶし」としては誠実
しかしどれだけ興行側が仕掛けても、観客に「観たい」と思われなければ、興行としては失敗です。先ほど、『ジオストーム』について「ありきたりのストーリー」「見世物映画」「『ほぼ無名』の監督」「知名度の低い出演俳優」と書きました。そうした作品に1800円を払って観に行くのは、映画体験としては「コスパが悪い」と思われるかもしれません。
しかし『ジオストーム』は、そう考える人に向けた映画ではないのです。極論すれば、「好きな監督や俳優がいて、彼らの最新作を常にチェックする」「過去のアカデミー賞受賞作をさかのぼって観る」ような人たちには、観てもらわなくてもいいのです。
映画にはいろいろな機能があります。熱心な映画ファンは、難解な社会問題をシビアに照射した作品や、斬新で実験的な演出に挑戦した作品が観たいと思うでしょう。原作ものであれば原作と映画版との違いをああだこうだと論じ、人気シリーズ最新作ならば過去作を観ていればニヤリとできるセリフやシーンのうんちくを語りがちです。
しかし、時にそうした映画は「なんか、めんどくさい」という印象も我々に与えます。事前準備も前提知識も、「作品に向かい合おう」などという大仰な心構えも必要もなく、ただただ即物的に2時間を退屈させないコンテンツ。そうした「コスパのいい暇つぶし」として映画を観たくなることもあるでしょう。
多くの人間には、(もちろん筆者にも)映画に限らず、そういう娯楽――土曜の午後にポテトチップをコーラで流し込みながら、何も考えず興じるような「コスパのいい暇つぶし」――が必要です。人生のすべての時間を向上心で埋めようとすれば、疲れてしまいますから。『ジオストーム』はそういう人間の欲求に、誠実に応えました。「週末1位」は必然なのです。