また、三島さんらの研究では、睡眠不足が5日間続くだけで、不安や抑うつが強くなることも確かめられている。「睡眠不足のときに不快なストレスを受けると、情動にかかわる脳の偏桃体が熟睡したときよりも活発に働くことが分かった」と三島さん。
例えば、ミスをして上司に叱られた場合、睡眠不足のときはグッスリ眠ったときより心のダメージが大きくなるということだ。
さらに慢性的な睡眠不足は、メタボや高血圧、糖尿病などの生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中、免疫力の低下などのリスクを増大させる。これらのことも、いくつもの研究で明らかになっている。
こうした健康への悪影響は、業務の支障も招く。例えば、バスやトラック、電車などの運転手が居眠り運転をして、大きな事故につながったことがあった。事故の背後にあったのが、睡眠時無呼吸症候群だ。このような睡眠障害による事故や生産性の低下は、当然のことながら、経済的な損失をもたらす。日本大学医学部精神医学系の内山真教授らが2005年に行った試算によると、勤務中の眠気による作業効率の低下や事故、健康状態の悪化などによって生じる日本の経済損失は年間3兆4694億円にも上る。
海外では、米国で1979年に起こったスリーマイル島原発事故や、1986年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故、旧ソ連で1986年に発生したチェルノブイリ原発事故も、スタッフの睡眠不足が主な原因の一つと報告されている。社会全体にとっても、睡眠不足のツケはあまりに大きいのだ。
「寝過ぎ」もかえって寿命を縮める!?
それでは、とにかくたくさん眠ればよいのかというと、そうでもない。よく「8時間の睡眠がベスト」などということを耳にするが、睡眠時間は加齢とともに短くなるのが一般的だ。実際、中高年はベッドにいる時間が長くても、本当に眠れている時間は短くなる一方。「個人差はあるが、平均すると30歳には7時間を切り、70歳には6時間を切ります」と三島さんは言う。