修業・下積みが、難しくなる可能性
協議にあたっては、労働時間を短くすることが最善なのか、事前に従業員間で話し合いたい。職種や業界によっては、残業削減を望まない従業員もいるからだ。特定社会保険労務士の大槻智之氏が例に挙げるのは、板前や美容師など、下積み期間がある技術系専門職。
「板前は仕事前に下ごしらえをして、美容師は仕事後にカットの練習をします。それを労働時間にカウントすれば、新しい上限規制に抵触するおそれがあります。ただ、技術系専門職は、労働を提供するかわりにスキルを学習させてもらっている面がある。その実態を無視して規制すると、5年で1人前になっていたところが10年になり、志望者が減って業界の衰退につながりかねない」
また、独立資金づくりなど明確な目的があって短期間に集中して働こうとしている人や、歩合給のウエートが大きい営業職でも、残業規制はむしろ邪魔という人もいる。
「規制を回避する方法として、裁量労働制や業務請負、管理職にするといったやり方が考えられます。しかし、実態が伴っていないと、脱法的と判断されるおそれがあります」
残業時間の上限規制は、一律に適用することが相応しくない職場もある。規制にどのように柔軟性を持たせるのかが今後の課題だ。