君たちのフィルターを通すと真実が見えない
スタッフには私の考えを、より深く理解してほしいと思った。そこで、「天領ミーティング」という現場会議を始めた。開店前や閉店後に私が店舗に出向き、店の問題点の洗い出しや改善への取り組みなどについて、徹底的に議論する場だ。
「社長が直々にやってくるのですか。自分がやりますよ」と店長やストアディレクターは私が現場に介入することを拒んだ。しかし、「いやいや、君たちのフィルターを通すと真実が見えない。だから、私が店に行く。そして店舗スタッフたちと直に話す」と取り合わなかった。
「店舗には店舗の『仕事』があり、スタッフも忙しいので……」などと食い下がるものだから、「ミーティングも『仕事』だよ。仕事だから参加してもらう。忙しいというなら、開店前や閉店後にやろう」と押し切るしかなかった。朝7時半もしくは夜8時半に私が店に出向いて、議論する日々が始まった。
ミーティングでは現状の把握だけなく、「なぜ赤字なのか」「どうすれば赤字を改善できるのか」といったことを詰めていった。それまでずっと、上から「やれ」と言われたことだけをやってきたせいで、スタッフは思考停止に陥っていた。上司に「どうすればいいか、考えてみよう」と言われたことがないから、頭を使うことを放棄している。私に「どうすればいいと思う?」と問われても、何も返せなかった。
上司を大事にしても、利益は増えないよ
このミーティングを通じて、私は店舗運営のもっとも重要なことをスタッフに伝え始めた。それが、「やるべきことはたった一つだ。お店を黒字にすることしかない。そのためにどうすればいいのか、具体策を考えていこう」ということだった。
しかし、スタッフの反応はもう一つだった。たとえば、「顧客にDMを送ってはどうか」と私がヒントを出したら、「え、お金を使っていいんですか?」などと言う。私は「コストをかけないと、利益なんて出ないよ」と教えた。メガネスーパーには、「お金を使わないヤツが偉い」というくだらない風潮が蔓延していた。「1円も使っていませんから」と自慢をするスタッフまでいた。
お金を使わないで経営再建などできない。もっと言うなら、無駄は徹底的に省いて、そのうえでコストをかけるべきところにしっかりお金を使う。それが「コスト感覚」の本質だ。そういったことも、スタッフに教えていった。
店の前にのぼりを並べたり、店内の意匠を変更したりといったことも、私が音頭を取って実行していった。ある店舗では、入口を入ってすぐのところに格子のようなものが設えてあり、たしかにオシャレには見えるが、店内の様子が外から見えない。もちろん、店内からも外の様子が見づらい。
店舗のスタッフに「これ、邪魔じゃないの?」と聞くと、「ええ、そうなんですよ」と言う。「そうか、それじゃあ今すぐ外してしまおう」と、脚立に乗ってバキバキと外してしまった。「そんなことをして、いいんですか!」とスタッフは目を丸くしたが、「いいよいいよ。だって、このままじゃお客さまから店内の様子が見えない。それでは不安で店に入ってくれないでしょ」と作業を進めた。
見るべきは上司でもなく、コンサルタントでもない。エンドユーザーであるお客さまの気持ちだ。「上司を大事にしても、利益は増えないよ」と、何度スタッフに話したかわからない。