業界慣習はどうでもいい。われわれは赤字企業なんだぞ

問題は、私の身は一つしかないことだった。部門ごとに議論していては効率が悪い。「さっき、マーケがこう言っていたんだけど」と、私がメッセンジャーになってしまった。それならば、みんなが一堂に会して、一緒に議論すればいいじゃないかと、部門を横断した形の全体会議を開くことにした。それが現在の「アクション会議」だ。この案にも、社員から反対意見が上がってきた。

「僕ら、月曜日は忙しいんです。火曜日開催にしてください」

月曜日に日曜日までのデータをまとめるから、忙しいと主張する。「いやいや、週初めの月曜朝に会議を開かず、火曜日開催にしたら、対応が1日遅れるだろ」と言い返した。小売業界では「月曜日は忙しい」が常套句で、たしかに火曜日にミーティングを実施している企業が多い。しかし、くだらない慣習にとらわれているような組織は、その時点でダメだ。私はこう言い放った。

「業界慣習なんてどうでもいい。われわれは赤字企業なんだぞ。1分1秒でも早く問題を解決して利益を出し、1日でも早く赤字から脱却しなければならない。危機感を持て」

それを聞いても「月曜朝ではデータの取りまとめが間に合いません」などと返してくるので、頭にきた。「よしわかった。それなら百歩譲って、月曜の昼まで待ってやろう。そのかわり、正午ピッタリに全員集まって、会議を始めるからな」と、それ以上は譲らなかった。

全国会議は、なんとしても全員参加させる

アクション会議には、首都圏エリアだけでなく、日本各地から関係する社員が参集する。「全国から集めるとお金がかかる」など、ここでもさまざまな反発が出たが、そんなものはやり方一つで、いくらでもコストを抑えることができる。

遅くとも半年前には予定を決め、割安の航空券を確保してしまえばいい。とにかく関係スタッフは全員集まれ、と呼びかけた。なぜなら、情報は全員でシェアすることが何より大切だからだ。全員参加でなければ意味がない。ストリーミング中継も行うが、どうしても来られない社員のためだ。

『レ・ミゼラブル』を鑑賞するとして、DVDを観るのと、大きな劇場でライブ観劇するのとで、心を揺さぶるのはどちらだろうか。生の臨場感、緊張感には、コストをかけるだけの意義がある。

10時間の会議は最後まで白熱したまま

アクション会議は、ひとたび開会したら最後までノンストップだ。休憩などは一切挟まない。とにかく時間がもったいないので、私がどんどん先に進めてしまう。話し合わなければならないことは、いくらでもある。そのかわり、会議中の飲食は自由。食べたいものを持ち込んで、好きなときに食べればいい。トイレも自由に行ってくれと言っている。トイレ休憩の時間なんて設けても、トイレが混雑して無駄に時間がかかり、会議の再開が遅れるだけだ。ノンストップの会議は、極めて合理的なやり方だ。

参加者には「関係する社員がいてもいなくても、構わずに議論は進める。決めるべきことを決めてしまう。絶対に待たない」と伝えている。このような会議形式についても、当初はかなり反発があった。しかし、緊張感が生まれ、だらけることなく、白熱した議論が展開されるようになった。正午から会議を始め、だいたい21時、22時くらいまでぶっ通しで議論するのだが、最後まで熱気を帯びたままだ。(後編に続く)

(構成=漆原直行 撮影=黒坂明美)