さて、一般の人たちに今年もっとも注目されたIT分野は、なんといってもAI(人工知能)だろう。グーグル傘下のAI企業ディープマインドは12月、「アルファゼロ(AlphaZero)」という新しいAIのプログラムを発表した。これは囲碁の李世石九段を5戦4勝で破り名をはせたアルファ碁(AlphaGo)をさらに進化させたもので、人間の棋士が対戦した棋譜データを与えなくても、自身のプログラム同士で対戦し、最善手を学習していくことができる。この結果、従来の囲碁や将棋、チェスのAIプログラムに圧勝する性能に達したという。

写真=Imaginechina/時事通信フォト

近年のAIは、深層学習(ディープラーニング)という手法を採用している。それにより、多くのデータから特徴量(学習データにどのような特徴があるか数値化したもの)を抽出し、同じ特徴がほかの場所や将来に起きる可能性があるかどうかを予測するまでを、人間の手を介さずにアルゴリズムによってこなすことができる。結果、AIがなぜその特徴量を抽出できたのか、そしてそこにおいてどのような計算をしているのかを人間が理解するのは、非常に難しくなっている。これが最近、AIの「黒魔術化」「ブラックボックス化」と呼ばれている現象で、この不可解さは今後もさらに加速していくだろう。

人間の知性に匹敵する「汎用型AI」は現れるか

この進化がどこまで進むのかを予測するのは難しい。すでに現在の深層学習でも、相当複雑な分析や予測が可能になっている。その成果が、2020年代には社会全体に一気に普及してくるだろう。まもなく実用化されるであろう自動運転車や、音声認識技術によるアシスタント機能、検索エンジンの自然文化などは、すべて深層学習がベースになっている。

深層学習をベースにしたAIは特化型AIと呼ばれ、人間の知性とはまったく異なるものだ。しかしこの先には、人間の知性に匹敵するような汎用型AIの可能性も期待されている。汎用型AIは深層学習の進化の先にあり得るのか、それともまったく別のアプローチが必要になるのか。このテーマでの議論や技術開発は今後も活発に行われていくことになるだろう。

ここまで、スマートスピーカーとVR/AR、AIについて論じてきた。情報通信テクノロジーは常に、インプットと計算、そしてアウトプットという3つのプロセスから成立している。インプットを多様化させ、データの処理を高度化し、そして人に与えるアウトプットを身体感覚に近いところに近づけるかというのが課題となっている。その意味で、インプットとしてのスマートスピーカー、データ処理を担うAI、そしてアウトプットを身体化するVR/ARというのはそれぞれのプロセスを形成する重要なイノベーションとしての意味を秘めているのだ。

佐々木俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経てフリージャーナリストに。テクノロジーの世界に精通し、それらが社会をどう変容させていくか、取材を続けている。『新しいメディアの教科書』(Amazon Publishing)ほか著書多数。
(写真=Imaginechina/時事通信フォト)
関連記事
AI時代でも「消滅せずに稼げる」職種10
楽天が挑むアマゾンエフェクトという苦境
ユニクロを脅かすアマゾンの"超個客主義"
アマゾンは音声認識で何を企んでいるのか
将棋で人間が人工知能に勝つ秘策があった