大迫に直撃取材「マラソンは稼げるスポーツですか?」

――実業団の日清食品グループをあえて退社して、「プロランナー」になった理由を教えてください。

【大迫】日清食品グループも十分にレベルは高かったんですけど、よりレベルの高いチームでやりたいと思っていたんです。自分の求める環境が米国(ナイキ・オレゴンプロジェクト)にあったことが大きかったですね。

――学生結婚をしていて、すでに家庭がありました。「稼ぐ」という意味で、安定収入の実業団から個人事業主であるプロになったことについてご家族はどう言っていましたか。

【大迫】実はそこはあまり気にしていなかったというか……。(家族の)意見はそんなに聞いていなかったです。デメリットというかリスクに関してはあまり考えずに、競技者としての環境を優先させてもらいました。

――プロランナーとしてスポンサー契約が増えることはどんな意味がありますか?

【大迫】金銭的なサポートはとてもありがたいです。サポートしていただけることで、合宿の頻度を増やすことができますし、自分のやりたいトレーニングができるようになると思います。また、新しい自分を探せるというか、世の中に対して(スポンサー契約する会社のイベントなどを通じて)何かしらの貢献ができることもうれしいですね。実業団に属して競技をしていると、自分にできる社会貢献とは何なのかといった気持ちもわかなかったかもしれません」

▼目指すは、瀬古利彦さん、高橋尚子さん

――プロランナーとして活動する難しさはどんなところにありますか?

【大迫】プロという個人事業主になってことで、自分の身の回りのことを自分でしないといけなくなりました。競技以外のことに取られる時間や労力は大きくなりましたね。福岡国際マラソン前の(アメリカ)ボルダー合宿では、日本から治療の先生に来ていただきましたが、その費用も自分で払っています。

――ずばり、「マラソン」は稼げるスポーツでしょうか?

【大迫】トラック競技と比べると、マラソンは多くの人に注目していただいているので、稼げるスポーツになっていくのではないかなと思っています。ただ何社もスポンサー契約を結べるくらいのレベルにならないと(大金は)難しいでしょう。瀬古利彦さん、高橋尚子さんなど、日本マラソン界には過去にすごい実績の選手がいたので、(知名度や収入面も含め)世間が日本人のプロランナーに求めるハードルは高いものがあるのかなと感じています。でも、それだけやりがいはありますね。

――日本の「実業団」というシステムの良い点、良くない点はどこだと思いますか?

【大迫】ストレスフリーで走ることに集中し、練習に打ち込めるという環境であることは非常にメリットだと思います。あと会社に守られているので安心ですよね。良くない点は、人によって違うと思いますが、僕の場合、チームが出てほしい大会と僕が出たい大会が必ずしもイコールではなかったことです。

残念ながら大迫への個別の取材時間は5分ほどだった。「2020年東京五輪の星」に話を聞こうと、会見に多くの取材陣が集まったためだ。それだけ注目度も高いということだろう。

日本で盛んな駅伝では1区間10km~20kmを走る。そのことが42.195kmを走りきる力を奪っているのではないか――。日本マラソン界の低迷の原因として、そうした声があるのも確かだ。しかし、大迫の登場によって、「箱根駅伝→ニューイヤー駅伝→プロランナー」という成功モデルが確立されれば、そうした声も小さくなるだろう。日本人の「1億円ランナー」が再び生まれる日が待ち遠しい。(文中敬称略)

「(企業に)サポートしてもらうことで、合宿の頻度を増やすことができる」(大迫選手)
(撮影=酒井政人 写真=iStock.com)
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