厚底王者ナイキの着用シェア率が下がっている理由
1月2、3日に開催された第100回箱根駅伝。往路・復路とも優勝したのは青山学院大学だったが、ランナーたちの足元を制したのは今年もナイキだった。カーボンプレート搭載の厚底シューズを投入して、第94回大会で初めてシューズシェア率でトップを奪うと、その後は“独走状態”が続き、今大会で“7連覇”を達成したことになる。
今回、ナイキは一般発売前だった『アルファフライ 3』(税込3万9650円)を着用した中央大学・吉居大和(4年)、東京農業大学・前田和摩(1年)ら“目玉選手”のコンディション不良もあり、強いインパクトを与えることができなかった。それでも1区を独走した駒澤大学・篠原倖太朗(3年)、5区の区間記録を大幅更新してMVPに輝いた城西大学・山本唯翔(4年)ら全10区間中7区間を制した。
ただし、シューズシェア率は前年の61.9%から42.6%に大幅にダウンした。21年箱根駅伝での着用率95.7%というほぼ100%の時点から考えれば、半分以下になったことになる。今回、王者・ナイキを食ったといえるのがアシックスとアディダスだ。
アシックスは前年から9.6ptアップ
アシックスは今年の箱根駅伝で57人が着用。シューズシェア率を前年の15.2%から24.8%に大きく伸ばして、2位に浮上した。第97回大会(21年)で屈辱の“着用率0%”に終わったが、その後は社長直轄プロジェクトで完成した〈METASPEED〉シリーズで盛り返している。
同シリーズはアシックス初のカーボンプレート搭載モデル。画期的だったのが、スピードを上げるときに歩幅が伸びる「ストライド型」と、歩幅も足の回転数も変化する「ピッチ型」の走法の違いに着目したことだ。それぞれに設計された2モデル(〈SKY〉と〈EDGE〉)があり、自身の走法に合わせて選ぶことができる。
他にも多彩なモデルを発売。カーボンプレート搭載シューズがスタンダードになったことで、骨盤まわりのケガが急増しているが、アシックスは「レース前の身体づくりをもサポートする“履き分け”を積極的に推し進めた」ことで“選ばれるメーカー”になったと分析している。さまざまなモデルのシューズを履くことで、特定の部位に負荷が集中するのを防ぎ、故障のリスクを分散することができるのだ。
今年の箱根駅伝では9区で青学大・倉本玄太(4年)が区間賞を獲得(※9区は区間1~5位の選手がMETASPEEDシリーズを履いていた)。また、実業団のニューイヤー駅伝でも7区間中3区間で同モデルを着用した選手が区間賞をゲットしている。
アシックスは正月の駅伝でシェアを伸ばしただけでなく、マラソンでも素晴らしい結果を残した。1月28日に開催された大阪国際女子マラソンで〈METASPEED SKY〉を着用した前田穂南(天満屋)が19年ぶりに日本記録を更新。日本人初の2時間18分台を叩き出したのだ。
その勢いに乗る形で同社は3月11日に新たなレースモデルを発売する。パリ五輪を意識した『METASPEED PARIS』(税込2万7500円)だ。
トップ選手を含む100人以上のテスターの声を取り入れ、各部位の形状や機能構造をバージョンアップ。その結果、さらなる軽量化に加え、反発性やクッション性の向上を実現した。前モデルと比較して、〈METASPEED SKY PARIS〉は約20g、〈METASPEED EDGE PARIS〉は約25gの軽量化に成功。フォーム材の反発領域も前者は約12%、後者は約20%も向上したという。
〈METASPEED EDGE PARIS〉のプロトタイプを着用してニューイヤー駅伝の最長2区で区間賞に輝いた太田智樹(トヨタ自動車)は、「前モデルも素晴らしいシューズでしたが、走り終えた後の足先へのダメージも少なく、自己ベスト更新を目指すランナーへおすすめできるシューズです」とコメントしているほどだ。
同社の業績では2022、23年の12月期で2期連続で過去最高の売り上げ・純利益を記録しているが、それを牽引しているのが『METASPEED』系を含む「パフォーマンスランニング」と呼ばれるカテゴリーだ。この国産ブランドがパリ五輪などでさらに存在感を高めれば、来年の箱根駅伝でのシューズシェア率は、王者ナイキにさらに迫る可能性は高い。