将棋はもっと手数が延びる可能性がある
現在、面白い現象が起きている。プロ棋士同士の対局の平均手数は、20年前は110手くらいだったのが、今は100手を切るくらいまで短くなっているそうだ。これは若手を中心にコンピューター将棋の流行の戦法を取り入るようになったためだが、逆にコンピューター同士の対局は手数がどんどん伸びているのだという。
「強いコンピューター同士で戦うと詰むまでに170手近くかかる。要するに、お互い防御力が上がってくるとなかなか終わらない。将棋はもしかしたら、もっと手数が延びる可能性があるのです」
11月の「将棋電王トーナメント」で問題になったのがこの手数だ。コンピューター同士の戦いには256手を超えたら引き分けというルールがある。256手もかかる展開というのは人間同士ではまず見られないのだが、コンピューター同士の戦いでは256手で引き分けとなるケースが増えてきたのだ。
「256手というのは人間が任意で決めた数ですが、コンピューターはその数値があるから指せる。無限という設定では指せないのです。次は400手くらいに増やしてみようかという話もあるのですが、そうすると自分よりもレーティングが高い敵と戦う場合は、勝ちを狙わずに引き分けに持ち込もうと逃げ回る戦術が現れるかもしれません。ただ、逃げきれば引き分けというルールは将棋にはないので、将棋本来の姿とは違いますよね。ですから、手数の問題もイタチゴッコで終わるのです」
人工知能と聞くと個性がなさそうだが、コンピューターの読みはプログラム次第。ソフトによってかなり性格は異なるという。
「プログラム自体は競馬の血統と同じで、いくつか基本となる親があります。代表的なものに『Bonanza(ボナンザ)』、『やねうら王』、『Apery(エイプリー)』などがありますが、駒の価値や配置をどう評価するか、どこまで読むかはそれぞれ異なります。
例えば、盤面のこの位置に飛車、ここに金、ここに銀を置くと、あるソフトは+900点とし、あるソフトは+600点と評価値が異なります。で、1億手くらい読んで一番プラスの多い点数の手を指すわけです。現在、コンピューター将棋ソフトの多くは、この部分は『ボナンザ』に任せ、この部分は『やねうら王』を取り入れて、と複数のソフトを組み合わせたハイブリッドタイプです。みんなバランスよく強くしているはずが、やはり個性は表れます」
1997年、15年間チェス世界チャンピオンのタイトルを保持し続けたガルリ・カスパロフを破った「ディープ・ブルー」はIBMが開発したもの。2016年、囲碁界の魔王と呼ばれ、世界でも指折りのトップ棋士イ・セドルを打ち負かした「AlphaGo(アルファ碁)」はグーグル・ディープマインド社製。