温室効果ガスの中心を占めるのは二酸化炭素(CO2)であるが、京都議定書の枠組みのように排出量削減義務が課せられている国と課せられていない国とが並存する場合には、エネルギー多消費産業・部門が前者の国から後者の国へ移転することによって、結果として、世界全体のCO2排出量が増大する問題が生じうる。これが、「炭素リーケージ問題」である。

このような現象が生じるのは、エネルギー多消費産業・部門が移出する側の排出量削減義務が課せられている国(例えば日本)のほうが、移入する側の義務が課せられていない国(例えば中国)よりも、総じてエネルギー効率が高いからである。この「炭素リーケージ問題」は、京都議定書の枠組みが持つ重大な落とし穴だと言うことができる。

これに対して、セクター別アプローチの場合には、国ごとではなくセクターごとにCO2等の温室効果ガスの排出量削減を図るため、「炭素リーケージ問題」は生じない。セクター別アプローチを採用すれば、エネルギー多消費産業・部門は、エネルギー効率がいい国(排出量削減義務が課せられている国)にとどまりながら、エネルギー効率が悪い国(排出量削減義務が課せられていない国)の同業者・同部門に対して、エネルギー効率向上に資する技術を移転することになる。

ここで、エネルギー多消費産業・部門がエネルギー効率のいい国にとどまることが重要なのは、そのほうが、当面、世界全体のCO2排出量を抑制できるからだけでなく、将来的にも、エネルギー効率のいっそうの上昇をもたらす技術革新が進展する確率が高いからである。


図1

ここで、主要な温室効果ガス排出産業におけるセクター別アプローチの有効性をさぐることにしよう。まず取り上げるのは電力業であり、続いて鉄鋼業に目を向ける。

図1は、電力業でセクター別アプローチに取り組んだ場合、30年までにCO2排出量が国・地域別でどれくらい削減されるかを、日本の電気事業連合会が試算したものである。この図は、中国・インド・OECD北米(アメリカ・カナダ)を中心にCO2排出量が大幅に削減され、その合計値は、世界全体で18.7億トンに達することを示している。05年の世界のCO2排出総量は266.9億トンであったから、その7%が、電力業におけるセクター別アプローチの実行で削減されることになる。

電力業におけるセクター別アプローチは、(1)既設火力発電所での運用改善、(2)新設火力発電所での運用改善、(3)低炭素化技術の開発・導入、の3つの柱からなる。