すでに異次元緩和の手じまいモードに

こうした中で、黒田日銀は、出口に向けた地ならしを徐々に進めている。かつてないスケールで実施された金融緩和には、副作用も想定され、正常化に向けて綿密なシナリオを用意しておく必要がある。

異次元緩和の本丸である国債の購入は年80兆円の目標が掲げられているが、足元では年60兆円程度まで、ペースを落としている。

昨年9月に長期金利を0パーセント程度に誘導する目標を導入した段階で、緩和の事実上の縮小が進む道筋が付けられており、黒田日銀は、すでに異次元緩和の手じまいモードに入っていると言えよう。長期金利は、政府の国債発行の量に大きな影響を受けるため、日銀が長期金利の誘導目標を設定した段階で、金融政策の主軸について、政府に下駄を預けたに等しく、異次元と称された日銀の国債買い入れの量は、縮小に向かっているのが現状だ。ETFの買い入れについても、弾力的な措置の中で、規模の縮小に向かって舵が切られる可能性もある。

ただ、デフレ脱却は、依然として重い課題であり続ける。北朝鮮問題などの地政学的なリスクも、懸念材料だ。突然の経済危機が訪れた時に、日銀が導入できる景気刺激策は極めて限られている。黒田日銀が2期目に入っても、待っているのは難しい環境の中で異次元緩和の出口を探る、いばらの道なのだ。(文中敬称略)

小野展克(おの・のぶかつ)
名古屋外国語大学教授。1965年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。89年共同通信社入社。日銀キャップ、経済部次長などを歴任。嘉悦大学教授を経て、2017年より名古屋外国語大学教授、世界共生学科長。博士(経営管理)(2016年)。著書に「黒田日銀 最後の賭け」(文春新書)、「JAL 虚構の再生」(講談社文庫)、「企業復活」(講談社)などがある。
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