「ダブルバインド」(二重拘束)なメッセージ
日本銀行は7月30、31日の両日、金融政策決定会合を開き金融政策を修正した。「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」、日銀が31日の決定会合後に示した発表文のタイトルには「強力」「強化」と「強」の字が二つも踊った。
こうした強弁こそが、金融緩和の継続が物価を押し上げるという回路に、黒田日銀が自信を持てなくなったことを逆説的に示していると言えよう。
発表文は金融緩和の継続と金融引き締めが同居した「ダブルバインド」(二重拘束)なメッセージが含まれている。
今回の決定で日銀は当面の金融政策の先行きを示す「フォワードガイダンス」を導入した。具体的には、来年10月の消費税増税の影響を踏まえ、当面の間、金融緩和を継続、異次元緩和の看板は掲げたままにする姿勢を示した。その一方で、長期金利の上下限を現在のゼロ%近傍から±0.2%まで容認する「事実上の金融引き締めへの転換」を忍び込ませた。
日銀がこうした精緻な寄木細工のような政策に追い込まれた背後には、黒田日銀が異次元緩和という金看板を簡単には下せないだけでなく、安倍首相、金融機関、財務省への複雑な配慮が潜んでいるからだ。
収益悪化の金融機関への配慮
7月20日夜に、「日銀が長期金利の誘導目標を弾力化するのではないか」との一部報道を受けて、日銀が金融政策の修正に動くとの観測が浮上した。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は7月の米議会証言で「段階的な政策金利の引き上げ」を実施する意向をあらためて強調、2018年の利上げ回数の中心シナリオも3回から4回に引き上げた。
FRBは金融政策の引き締めを順調に加速している。そうした中で、日銀の対応に注目が集まっていた。
日銀の場合、テーマになったのは、長引く緩和の副作用だ。長引く長期金利の低迷が、金融機関の運用力を低下させ収益を圧迫していることに、どう対処するのかに市場の視線が注がれていた。
金融機関は主に1年未満と期間の短い預金でおカネを調達し、それよりも期間の長い貸し出しや国債で運用している。通常は長期金利が短期金利より高いため、短期調達・長期運用では利ざや(長期金利-短期金利)がプラスとなり利益を稼ぐことができる。現在、長期金利(期間10年)がゼロに抑えられているために、コストも考えると利ざやはマイナスとなり、地域金融機関の多くが実質的には赤字に陥っている。