役員賠償保険でもカバーされない

企業における対策としては、米国、英国当局のいずれも、「リスク評価」の実施を強調しています。つまり、国別に、どの国で贈収賄の発生の可能性が高いかを評価し、リスクの高い国から対処していくことを推奨しています。例えば、現地拠点または事業に応じて贈賄リスクの高低を評価し、リスクの高い国、事業について、接待・贈答・外国公務員等の招聘・寄付の規制方法、教育・モニタリングの対象・頻度・方法、エージェントなど第三者の管理・評価の方法、子会社の支援の方法等を決定し、継続的・定期的にこれを実施するというようなことが推奨されています。

また、贈収賄禁止、競争法違反については近年、外国人株主も増加していることから、株主代表訴訟、集団訴訟に発展し、巨額の損害賠償を請求されるケースを想定しておく必要があります。一部には「役員賠償保険に加入しているから個人に莫大な罰金が科せられても問題ない」と考える向きもあるようですが、実際に役員本人が摘発され、事実認定されれば、保険の適応外となります。いずれにしても、経営者が広い意味でのコンプライアンスをどう遵守していくかを事業戦略の一環と捉え、対応することこそが肝要と言えます。

茂木 寿(もてぎ・ひとし)
有限責任監査法人トーマツ ディレクター。1962年生まれ。有限責任監査法人トーマツにてリスクマネジメント、クライシスマネジメントに関わるコンサルティングに従事。専門分野は、カントリーリスク、海外事業展開支援、海外子会社のガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)体制構築等。これまでコンサルティングで携わった企業数は600社を越える。これまでに執筆した論文・著書等は200編以上。政府機関・公的機関の各種委員会(経済産業省・国土交通省・JETRO等)の委員を数多く務めている
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