「日本スゴイ」論の陰に隠れたしょっぱい現実
データを見ても、カンボジア経済における中国の存在感は明らかだ。2015年、中国によるカンボジアへの投資額は2億4100万ドルで、シェア1位の30.7%を占めた(ちなみに日本は3900万ドルで5%、シェア7位。数年前までシェアは1%台だった)。現地で会った日本の公的機関関係者が「日本は中国と勝負にすらなっていない」と語るほど、差異は圧倒的である。
一方、援助の分野でも差がついている。日本は従来、カンボジアの最大の援助国で、同国への各国別援助額の20%程度を常に拠出してきたのだが、ゼロ年代後半から中国の援助額が一気に伸びはじめ、2010年にはついに日本を逆転した。現在、中国による対カンボジア援助額は日本の数倍に達し、いまやカンボジアは「国家予算全体の5%くらい」(JICA関係者談)の資金を中国に頼るに至っている。
結果、カンボジアにおける日本の存在感は大きく減少しており、さらに中国マネーと利権で結びついたカンボジア政府は、南シナ海問題などで真っ先に中国を支持する、中国の子分筋に変わってしまって久しい。こうした現象はカンボジアだけではなく、程度の違いこそあれフィリピンやタイなど東南アジアの各国で見られる傾向だ。
近年、テレビ番組や書店で平積みされる書籍では「世界で愛されるスゴイ日本」といった論調が幅をきかせて久しい。だが、海外の現場から見えてくる姿はもっと厳しくて、しょっぱい現実だったりするのである。
ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師
1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。鴻海の創業者・郭台銘(テリー・ゴウ)の評伝『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)が好評発売中。