地球を3周してみつけた解決策
【田原】どうして反対するんですか?
【岡田】理由はいくつかあります。真っ先にあがるのは技術的なこと。空中で飛行機をつかまえるのも難しいのに、その20倍の速さで飛んでいる宇宙ゴミをどうつかまえるのかと。
【田原】たしかに。実際、どうやってつかまえるのですか。
【岡田】スピードについては、捕獲衛星を速くしてゴミに近づいていけば相対速度をゼロにできるので問題ありません。厄介なのは、何を使って捕獲するか。当時、みんなが考えていたのはロボットアームやネットなどです。でも、それぞれ問題が。宇宙は無重力なので、アームを動かすと重心が変わって本体が回転するし、つかみ損ねて破片に当てると、スーッと飛んでいってしまいます。ネットをかけてキャッチするというアイデアでは、金属製の紐でネットを引っ張る必要がありますが、宇宙空間では力が減衰しないので難しい。1回振動を始めるとずっと振動し続けて、やがてプチンと切れてしまうおそれもあります。
【田原】じゃ、どうするんですか。
【岡田】いろいろ仮説をつくって、世界中の専門家に意見を聞き、仮説を練り上げていきました。専門家に会うために、たぶん地球を3周はしたかな。その結果、ものになりそうなのが粘着剤でつかまえる方法でした。
【田原】粘着剤?
【岡田】粘着式のゴキブリ駆除剤は、ゴキブリが入ったらベトッとまとわりついて動けなくなりますよね。あの応用です。アームのような機械系は数10キロの重量があるので打ち上げなどのコストが高くつきます。ただ、粘着剤なら100グラム程度でいい。ちょっと触れただけでくっつくので、アームのようにつかみ損ねる心配もいりません。
【田原】そんなに便利なら、どうしていままで誰も考えなかったんだろう。
【岡田】宇宙は真空なので粘着剤は蒸発すると考えられてきたんです。でも、よく調べてみると、粘着剤は高分子同士でくっついているので蒸発しないことがわかった。宇宙のエンジニアは電気工学や機械工学に強いのですが、化学の観点から考えると新しい発見がありました。
【田原】粘着剤はどうやってつくるのですか。
【岡田】毎回同じクオリティにしなくてはいけないので、つくってくれる人を探しました。大手の化学メーカーには断られ、最終的にはある日本の中小企業さんにお手伝いいただきました。
【田原】つくるところまでいったんだ。
【岡田】はい。ただ、いまは磁石で捕獲する方法を検討しています。磁石なら少しずれても再トライしやすいので。
【田原】つかまえた破片はどうしますか。地球に持って帰る?
【岡田】大気圏に落として燃やします。