ANA副社長「次は宇宙事業だ」

【田原】もう打ち上げられますか?

【岡田】最初の衛星を17年末から18年頭にロシアから打ち上げます。最初の衛星は、1ミリ以下の微小な破片を計測する観測衛星です。微小な破片は多すぎて除去しきれないので、ぶつかっても壊れないように将来打ち上げる機械の設計に反映させるほうがいい。微小なデブリは各機関でデータにバラつきがあるのが現状です。きちんと密度を測ることで、より精度の高いデブリの分布図をつくり防護計画に役立てることが可能になります。

【田原】除去衛星はまだ先ですか。

【岡田】いま並行してつくっていて、こちらは19年前半に打ち上げる予定です。

【田原】アストロスケールはANAホールディングスなどから出資を受けました。ANAの目的は何でしょう。

【岡田】副社長は「航空事業はあと10年でやり切る。次は宇宙事業だ」と話していました。

【田原】ANAは宇宙ロケットの定期便をやりたいということですか?

【岡田】本当のところはANAさんに聞いてもらったほうがいいですが、一般論としてはそうでしょう。宇宙業界は航空業界の50~60年後を追っています。ライト兄弟が初めて空を飛んだのが1903年で、スプートニクという旧ソ連の衛星が初めて飛んだのが57年。飛行機は2つの世界大戦を経て進化して、終戦時には複数の国が飛行技術を持っていました。ロケットも同じで、米ソの宇宙開発競争と冷戦を経て技術が伸び、冷戦終了時には複数の国が技術を持っていました。宇宙の定期便も、いずれ飛行機のように定着するはずです。

【田原】宇宙開発競争は懐かしいですね。アームストロングが月面を歩いたのは69年。関係ない話かもしれませんが、アメリカはどうしてあれ以降、月に行かないんだろう。

【岡田】おお、月の話になりましたか。じつは月への有人飛行も宇宙ゴミと関係あるんです。

【田原】どういうこと?

【岡田】宇宙ゴミは高度600~1000キロに固まっています。人工衛星は地球に近いほうが解像度が上がりますが、近すぎると大気の摩擦でスピードが落ちるので、この高さに集中しているわけです。月に行くにはゴミの帯を突き抜ける必要がありますが、衝突して事故になるリスクがあるので、有人飛行が許されなくなったともいわれています。いま飛んでいる国際宇宙ステーションやスペースシャトルは、すべて帯の内側。最後に帯を抜けて人が飛んだのは、72年のアポロ17号が最後です。

【田原】宇宙ゴミが壁になっているんですね。

【岡田】宇宙業界の人は自分たちが出したゴミのせいで行けないとはあまりいいませんが、そうした説もあります。いつか地球の周りのゴミを一掃して、ふたたび人類が安全に月に行けるようにしたい。それが私の夢です。

岡田社長から田原さんへの質問

Q.イノベーションの要、理系進学率を高めるには?

最近の若い人はSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マテマティクス)嫌いだそうですね。ただ、かくいう僕も苦手。

問題は、子どもを理系嫌いにさせる教育システムにある。小3のころ、円を3等分しろという問題が出て紙を細かくちぎって3つに分けたら、先生からこっぴどく叱られました。のちに広中平祐さん(数学者)から「それは微分のやり方で、数学的に正しい」と教えてもらいましたが、先生は1つのやり方以外認めなかった。日本の教育システムにはそうした融通の利かなさがあって、柔軟な発想をつぶしてしまう。そこを変えないと、STEMを面白いと感じる子どもは増えないんじゃないかな。

田原総一朗の遺言:柔軟な発想を許容しろ!

(構成=村上 敬 撮影=枦木 功)
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