己の嗜好を貫き通すよりも、恥を徹底的に避けたい。そう考える人が多数派なのです。使える時間(貴重な週末を使うことになる)とカネ(1本1800円は結構な出費)が限られている中では、「恥の回避」を優先する人が多くなるのは当然なのでしょう。

どちらか1本を観るなら『関ヶ原』を選ぶ

その結果、知名度が低い≒「世間」が好むコンテンツではない、と判定された『ワンダーウーマン』の視聴優先度は下がりました。極論すれば、平均的日本人であればあるほど、「ある週末にどちらか1本を観るなら『関ヶ原』を選ぶ」のです。

このような構造から、日本の映画興行ランキングは “良心的な古参映画ファン”が悲観的に愚痴るところの「ガラパゴス状態」になっています。保守的な邦画とアニメが上位を占めてしまい、未知の洋画は検討すらしてもらえないわけです。

意欲作にもかかわらず、「よく知らない洋画」というだけで、まともな勝負の土俵に立たせてもらえないのです。『ワンダーウーマン』はかなり健闘しているほうだと思いますが、最近でも『LOGAN ローガン』(日本興収6.9億円)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(日本興収11.5億円)などは、全米や海外では多くの観客を集め、評価が高かったにもかかわらず、日本ではそこまでの成績を挙げられませんでした。

いまだに鎖国中のガラパゴス状態

「土俵」で連想するのが、昨今の相撲事情です。日本の「国技」である相撲で、日本人横綱と日本出身横綱の違いが話題になりました。すでに帰化している外国出身の日本人横綱がいるにもかかわらず、「19年ぶりの日本出身横綱の誕生」がニュースになったのです。

現在の映画市場においても、日本の多くの観客たちは「外国人力士=洋画」への寛容さに欠けているように思います。この不寛容は、「関ヶ原の戦い」の後に待っていた徳川幕府による“鎖国”、つまりガラパゴス状態そのもの。これは天下泰平とも呼ばれますが、ゆるやかに死んでいる状態とも言えます。無言の同調圧力が威を振るう日本の映画市場は、いまだに鎖国中のガラパゴス状態ではないでしょうか。

しかし観客ひとりひとりが「嗜み」や「気後れ」を捨てて鎖国を解けば、きっと新しい時代がはじまります。その結果、体格もファイティングスタイルも異なる新進気鋭の「洋画」が土俵上で思う存分暴れ、「邦画」は切磋琢磨されてどんどん強くなるでしょう。観客は今まで以上にエキサイティングな取り組みを見られるようになり、目が肥えていきます。鎖国に飽きた一部の志士たち(少数のエリート)は、もうとっくに、そのことに気づいているのでしょうが。

(写真提供=2017「関ヶ原」製作委員会)
関連記事
裏ワザ「映画鑑賞」で、1800円はどこまで安くなるか?
映画「はなちゃんのみそ汁」を若いカップルや夫婦に観てほしい理由
田辺誠一「子どもの父親を見る目が変わる映画4本」
映画"パイレーツ"と"メアリ"の残念な違い
トランプ氏はなぜ「映画監督」になりたかったのか?