また、アメリカ本土やグアム、ハワイに向けて発射された弾道ミサイルがわが国の上空を通過した際、なんらかの理由で上昇中のミサイルが事故を起こす可能性もある。この場合、弾頭や本体、燃料等が、日本の領土・領海内に降り注ぐことも考えられる。火星12号や火星14号の推進剤だと推測されるUDMH(非対称ジメチルヒドラジン)は強い毒性で知られ、その蒸気や液体に接触すると、皮膚の熱傷や潰瘍、失明などの危険がある。弾頭に核物質が搭載されていた場合は、その飛散も懸念されるだろう。

成層圏内での迎撃が望ましいが……

地上への被害を最小限にとどめるには、ミサイルが成層圏にいる間に迎撃し、危険物質の早期飛散を狙うのが順当な方法となる。現在のところ、その最も有効な手段は、航空自衛隊のPAC-3による迎撃だ。ただPAC-3は、上昇限度(約15km)はともかく、カバーできる範囲が発射機から約20km以内と狭いのが難点だ。現在韓国での配備が進められているアメリカ軍のTHAADをわが国が保有していれば、成層圏よりさらに高い高度での迎撃が可能だが、残念ながら今後の配備に期待している段階である。

8月10日には、朝鮮中央通信が「軍は8月中旬以降に米領グアムを囲むように火星14号を4発同時に撃ち込むことを検討」というコメントを発表した。発言を真に受ければ、北朝鮮から発射された中距離弾道ミサイルは日本列島を飛び越えて南方へと向かうわけだが、その際に弾道ミサイルは高い推力を誇るロケットエンジンによって早々と慣性飛行に遷移する。恐らく北朝鮮はイージス艦搭載のSM-3ミサイルによる迎撃を避けるため、約1000kmを超える高度を飛行するよう指令するはずだ。

こうなるとイージス艦による迎撃のチャンスは、グアム近海におけるごくわずかな時間しかない。アメリカ海軍のイージス艦に搭載されるSM-3ミサイルの迎撃能力をもってしても、弾道ミサイルの弾頭が分離された後、その高度が500kmから100kmまでに下がってくるわずか数十秒のタイミングでしか対応できないからだ。それより下層での迎撃には、同じくイージス艦に搭載されるSM-6インクリメントや、陸上配備のTHHADが必要で、さらに最終段階ではPAC-3頼みとなる。

今後も進化を続ける北朝鮮のミサイル技術

先般、小野寺防衛大臣はグアムに向けた火星12号の発射に際し、誤って日本に落ちてきた場合を想定して、出雲(島根県)、海田市(広島県)、松山(愛媛県)、高知(高知県)の4つの陸上自衛隊駐屯地に、航空自衛隊のPAC-3部隊の展開を命じる破壊措置命令を出した。しかし前述のように、PAC-3が届くのはミサイルが事故などで日本に落下してきた場合だけで、グアムや米本土に向かって飛行中の弾道ミサイルを集団的自衛権を行使して撃墜するには、新型ミサイル(SM-3ブロックIIA)とそれを管制できるシステムを搭載する、海上自衛隊のイージス艦が必要となる。