「本部一人勝ち」の否定

各地の「FC店」(FCチェーン加盟店)とFCチェーン展開全体に責任を持つ「FC本部」(本部)の関係は、時に「求心力」と「遠心力」にたとえられます。地域の実情を最もよく知る各店舗が、それぞれのやり方で顧客満足を高める一方(部分最適)、時には本部主導で運営方針を決めること(全体最適)も必要です。レイ・クロックはこう語っています。

ハリー・ソナボーンを演じたB・Jノヴァク。(C)2016 SPEEDEE DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「私がこの時期(引用者注:1955年頃)に下した決断の中に、その後の私のフランチャイズシステムとマクドナルドの発展に大きな影響を及ぼしたものがある。それは仕入れに関して、我々は一切口を出さないということだ。店舗が成功するためには力を尽くして手伝う。それがこちらの収益にもつながるのだから。だが、同時に相手を客のように扱うのは不可能だった」

「パートナーのように扱う一方で、商品を売り利益を追求するのは相反する行為だと私は考える。サプライヤーのようになってしまえば、自分の利益のほうが心配で、相手のビジネスの状態などは二の次になってしまうだろう。(中略)我々のシステムは、それぞれのフランチャイズオーナーが最低価格で品物を仕入れることを可能にした」(『成功はゴミ箱の中に』より)

本部が商品を卸すのではなく、仕入れは各店舗に任せたのです。FC店に委ねた結果、大ヒット商品も生まれました。あの「フィレオフィッシュ」(本書ではフィレオフィッシュサンド)は、シンシナティのFC店オーナーであるルー・グリーンが開発したものです。

新商品開発のキッカケは危機感でした。シンシナティにはカトリック信者が多く、毎週金曜日は教会が信者に「肉の摂取を禁じていた日」。当日は競合の「ビッグボーイズ・チェーン」が提供するフィッシュサンドイッチの前に営業面では惨敗続きで、魚を使ったハンバーガーのアイデアを提案したのです。最初クロックは猛反対しますが、やがて翻意します。これが世界的な大ヒット商品につながりました。現場の実情を知らない本部主導では、こうしたニーズのくみ取りもできなかったことでしょう。