ところで、このドキュメンタリーの冒頭にはテロップが表示されている。それは「この番組は長崎県で3月20日に放送したものです」というものだ。

『祈りの島を訪ねて』と題したドキュメンタリーはまず、3月20日にNHK長崎放送局で放送された。それが好評を博し、4月29日には九州ブロックで放送され、そうして今回、BSプレミアムで全国に放送されることになった。

こうした流れはしばしば見かけるものだ。たとえば、僕が前回取り上げた『うったづぞ 陸前高田 人情仮設の鮨』というドキュメントもまた、まずはローカル局で何度かオンエアされ、そのたびに編集が加えられ、そうしてNNNドキュメントの枠で全国放送されたものである。

ただ、今回の『祈りの島を訪ねて』について特筆すべき点はもう一つある。それは、この企画はNHK長崎放送局の夕方のニュース番組「イブニング長崎」で2年間にわたり放送されてきた同タイトルのコーナーの総集編であるということ。

過疎が進む地域で引き継がれる信仰

知らない町に出かけた時、楽しみの一つは夕方のニュース番組だ。

ビジネスホテルにチェックインを済ませたものの、酒場に繰り出すにはまだ早い。そんな時間には、ベッドに転がってテレビのスイッチをつける。地方局はそれぞれ独自のニュース番組を持っている。東京にいれば触れることのなかったささやかな出来事が、その土地のイントネーションで伝えられている。そういう番組をぼんやり眺めるのが好きだ。この『祈りの島を訪ねて』も、まさにそうした番組の中で放送されていたのである。

テレビとネットで配信される動画の違いは何か。それは、テレビは常に放送され続けているということだ。放送時間は常に何かしらの映像で埋められなければならない。そのために膨大なVTRが記録され続ける。その多くは一度流れるとそれきりで、「今」という時間にだけ存在するものだ。だが、NHKアーカイヴスを観てもわかるように、何気なく放送された「今」の映像も、時間が経てば貴重な記録になる。だから、夕方のニュース番組の一企画だったものが一つのドキュメンタリーとしてまとめられ、全国区でも放送されるのは喜ばしいことだ。

2年間にわたって放送された企画の総集編とあって、番組はオムニバス形式で構成されている。キリシタンの移住を受け入れ、宗教の垣根を超えた交流が今も続く奥浦地区。カトリックによって結成され、操舵室にマリア像の置かれた巻き網漁船団。民家を改築して造り上げた若松大浦教会。漁師たちが中心になって守り継いできた打折教会。過疎と高齢化が進み、たったひとりで守り続ける繁数教会。伝統行事である聖母行列を維持するため、参加する信徒集めに奔走する浜串地区の男性。長崎カトリック神学院で神父を目指す五島出身の若者。江戸時代から引き継がれてきた信仰は、過疎と高齢化で困難に直面しつつあるけれど、新しい世代も育ちつつある――そうした希望に光を当ててドキュメンタリーは終わる。