現代の浮世絵師養成学校をつくる
【田原】石川さんは本物の絵師と言っていいんですか。だって、新作は誰も描いてないんですよね。
【三井】6代目歌川豊国に師事していたり、新藤茂先生という浮世絵の研究者に弟子入りされていたので、腕はパーフェクト。ただ、石川さんにも自分の絵が本物の木版画や浮世絵になった経験はありません。筆では描けても、木版画にして摺ると、線にならない線、色にならない色があります。そういったものを彫師さんや摺師さんと話し合いながら絵を仕上げていきました。完成したのは、キッスが来日する直前でした。
【田原】最初に企画したものだけでなく、ももいろクローバーZとコラボしたものもつくったそうですね。
【三井】制作を進める途中で、キッスが来日時に、日本のアイドルとコラボするという情報をキャッチしました。詳しく話を聞いてみると、相手はももクロで、コラボ曲のタイトルが「夢の浮世に咲いてみな」という、浮世絵をテーマにしたものだと。まったくの偶然でしたが、急遽ももクロの浮世絵も追加しました。こちらも200枚限定で、ももクロのファンを中心に60枚が一気に売れました。
【田原】今後はどう展開しますか。
【三井】これから世界のポップカルチャーのレジェンドを浮世絵にしてシリーズ化します。第2弾として、ヘヴィメタル界のレジェンド、アイアン・メイデンの浮世絵をつくりました。浮世絵にしたのは本人たちではなく、エディというバンドのキャラクター。すでに2016年末に販売を開始しました。まだ言えませんが、このあとも新作を作成予定です。
【田原】シリーズ化して、その先は?
【三井】ギャラリー展示の世界ツアーをやりたいです。いまキッス4枚、アイアン・メイデン2枚で計6枚ですが、まずはそのためにラインアップを揃えます。
【田原】世界に浮世絵を広めるわけだ。
【三井】はい。広めるアイデアはいろいろあります。最先端のメディアアートと組み合わせて、日本の伝統工芸とテクノロジーを紹介するのもおもしろい。いろいろなやり方で世界に「UKIYOE」を広めたいと考えています。
【田原】目的のひとつは職人を増やすことだとおっしゃっていた。作品を発表後、変わりましたか。
【三井】彫師と摺師は増えました。この前も「弟子が2人入ったよ」と連絡をいただいて、この活動が日本の伝統技術の保存に微力ながら貢献できたと実感しています。でも、後世に名の残る浮世絵師に関しては、しっかりと浮世絵の線が描けるのは、石川真澄さんしかいません。
【田原】絵師を増やすための作戦はあるんですか。
【三井】絵師を育てる学校をつくりたいです。絵師になりたいけど、なり方がわからないという人が多いはずなので、そこで何かできたらなと。
【田原】頑張ってください。
三井さんから田原さんへの質問
Q. これからでも日本から新カルチャーは生まれますか?
日本の歴史上、文化がもっとも華やかだったのは江戸時代でしょう。なぜ江戸時代に文化が隆盛したかといえば、鎖国していたから。外国から文化が入ってこなかったので、独自に発展せざるをえなかったわけです。いま日本独自の新しいカルチャーが生まれていないとしたら、それはグローバリズムと無関係ではない。日本はAIの分野で世界に後れを取っています。それは自分たちがやらなくてもグーグルやアップルがやってくれるから。おそらく文化も同じです。
だからといって鎖国がいいとは思いません。グローバリズムを前提に若い人たちが新しいものを生み出し、広められれば実現できるでしょう。
田原総一朗の遺言:グローバル化の波に乗れ!
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、ウォンテッドリー CEO 仲暁子氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、7月24日発売の『PRESIDENT7.31号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。