一方、同じことを経営層が言ったならどうか。おそらく多くの社員は次のように感じるはずです。

「うちの会社は教育にお金をかけるつもりがないのか。OJTといって格好つけているが、結局はただ現場まかせにしているだけじゃないか」

言っていることは全く同じですが、受け取られ方は180度逆です。このように発言者の立場が違えば、メッセージの意味合いも変わります。

営業強化でも同じことがいえます。客観的な視点を持った第三者であるコンサルタントが伝えたほうが素直に受け止められる場合もあれば、普段から一緒に汗をかいている上司が熱い言葉で伝えたほうが心に響く場合もあります。内容が正しければ誰が言っても同じではないのです。

動機づけに必要な上司の「人間性」とは

動機づけにおいても、「誰が」言うかは無視できない要素です。何を言っても部下がやる気にならないのは、メッセージが間違っているからではなく、そもそも上司が「メッセージを発信するのにふさわしい人物」ではないからだという可能性があります。
後者の場合、部下を変える以前に、上司自身がマネジメントするにふさわしい人物にならなければなりません。多くの上司は、その現実と向かい合いたくないがゆえに、無意識のうちに「何を」言うかばかりに注目してしまうのです。

では、部下を動機づけするとき、いったいどのような上司なら言葉が胸に届くのでしょうか。

まず思い浮かぶのは「実績がある上司」です。しかし、実績と動機とあまり関係しません。多くの上司は、もともと若手の部下に比べて実績のある人たちです。それでもメッセージが届かないケースがあるということは、実績があれば部下が耳を傾けてくれるわけではないことを示しています。 また、役職定年の増加により、年上の部下が増加する傾向にあります。部下の中には、上司より輝かしい実績を持っている人もいます。そのような人に実績を振りかざしても心は動きません。

動機づけに関係するのは、上司の「実績」よりも「人間性」です。部下が上司を認めていなければ、どのような正論も響きません。「この人の言うことなら信じてもいい」と思わせる関係性があって、初めて動機づけのメッセージが力を持ちます。