「誰」が言うかで動機づけが変わる
営業のコンサルティングで担当者たちに指導をしていたときの話です。 指導の様子を見ていたマネジャーが、なんとも複雑な表情で私たちにこう言いました。
「おかしいな。あなたたちが指導していることは、いつも私が部下に言っていることと同じだ。私が言ってもみんな聞き流すのに、外部のコンサルタントが言うと真剣に聞いている。いったいどうしてなのか」
実はコンサルティング先のマネジャーからこのように言われた経験は一度や二度ではありません。いつも一緒にいる上司が指導しても伝わらないのに、これまで接点がない私たちが同じことを伝えると、現場の社員たちがきちんと受け止めてくれるという現象が起こるのです。
上司からすると、これはあまり愉快な気分ではないでしょう。しかし、こう考える上司は大事なことを忘れています。 それは「何を」言うかと同じくらい「誰が」言うかが重要だということです。
私たちはコミュニケーションにおいて、どのようなメッセージを伝えるのかということに意識を奪われがちです。確かにメッセージの中身は大切です。しかし、同じメッセージでも、発信者の立場や人柄によって意味合いが変わってくることがあります。そのことを考慮せず発信すると、正論を言っていても相手に伝わりません。
例えば人材育成について、次のような発言があったとします。
「当社は研修より、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)重視だ」
OJTとは、研修などの集合教育と違い、現場で実際の仕事を通して必要なことを教えていく教育法のことです。
このセリフを言ったのが直属の上司なら、社員は、「上司は研修まかせにせず、自身が積極的に関与しようとしている」 というニュアンスを感じ取るでしょう。指導のスタイルにもよりますが、一般的に上司の積極的な関与はポジティブな姿勢の表れであり、部下にも歓迎されるはずです。