やらされ感は、部下に強制的に何かをさせるときだけでなく、放任主義で上司が部下のことに一切かかわらないようにしているときにも生まれます。いま営業の現場で問題になっているのは、むしろ後者です。

上司が部下の指導のためによかれと思って行った言動がパワハラ扱いされて、部下が上司を訴えたり、退職してしまうことがあります。それは上司にとっても本意ではありません。その結果、上司は何か指導すべき場面があっても、「部下がどう受け取るかわからないから、少し様子を見よう」と一歩引いてみるようになりました。いまはパワハラ上司より、部下を遠くから見ている放任上司のほうが多い印象です。

放任によって、部下が安心して働き、高いパフォーマンスを発揮できるようになるなら、問題ありません。ところが、上司が部下と距離を取ることで別の問題が発生します。部下の「自分が困っているのに、助けてくれない」「ノルマだけを与えられて、やり方を教えてくれない」という不満につながっているのです。

わが子を育てるように部下を育成せよ

いくら放任主義になったといっても、結果まで放任というわけにはいきません。プロセスの指導がなく結果だけを求められると、部下はその仕事をやらされている感覚になります。「上司は無責任だ。自分では何もしないのに、われわれだけ働かせようとする」と考えるわけです。

理想論でいうと、上司はわが子を育てるように部下を育成すべきです。わが子の未来に関して、真剣に考えていない親はいません。その結果、ときには厳しいアドバイスを行うこともありますが、子を傷つけることが目的ではないので、ブレーキがかかるものです。 ところが最近の上司は、一時的に預かった知り合いの子どもに接するときのように、部下と恐る恐る接触しています。厳しいことは言わないし、小さなことでもすぐ褒めて、お客さま扱いです。これでは部下は成長しないし、逆にやらされ感にもつながってしまいます。

パワハラは許される行為ではありませんが、だからといって遠くから離れてマネジメントしていてはチームのためになりません。相手に踏み込みすぎず、かといって離れすぎない、適切な距離感を探るべきです。

カーナープロダクト代表取締役 横田雅俊(よこた・まさとし)
長野県生まれ。 工学部にて設計を専攻。設計士として活躍。その後、外資系ISO審査機関にて営業職を経験。「最年少」「最短」「最高」記録を更新し、世界8カ国2300人のトップセールスとなる。東京本社マネジャーに就任し、三年で同機関を日本有数のISO審査登録機関(単年登録件数日本No.1)へと急成長させる原動力として活躍。その後、営業に特化したコンサルティングファーム、株式会社カーナープロダクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『営業は感情移入』『諦めない営業』など。近著に『動機づけのマネジメント』(プレジデント社)がある。
関連記事
売れる営業ほど注目「動機づけ」とは何か
「社畜」が主人公の漫画が増えている理由
辞めるべき「ブラック企業」の見分け方5
セクハラ、パワハラを言葉ひとつで撃退するには?
女性ならでは「職場のあるある理不尽」解決法