メディア事業からEコマースへ
【田原】資金調達をして、2012年4月に起業しますね。場所はデラウェア州。どうしてシリコンバレーのあるカリフォルニア州じゃないんですか。
【亀井】税制面の問題です。アメリカのスタートアップはシリコンバレーで起業しますが、登記はデラウェアというところが多いんです。よく知らなかったのですが、500 Startupsの人たちにそう聞いて、僕たちもデラウェアで登記しました。
【田原】さて、起業したらマネタイズを考えなきゃなりません。何から始めたのですか。
【亀井】最初はメディア事業です。Tokyo Otaku Modeの中にバナー広告を貼ったり、日本に興味がある人たちに向けてビジネスをやりたい企業とタイアップ広告をつくったり。でも、これだと売り上げは数億円程度。もう少し大きく成長するビジネスをしたいと思って、Eコマースを始めました。要はグッズ販売です。
【田原】Facebook上で売れるんですか?
【亀井】いや、自社のサイトです。当時、FacebookでTokyo Otaku Mode にLike(いいね!)してくれた人が約300万人いたので、そこから集客しました。
【田原】最初はどういうものを売ったのですか。
【亀井】何が売れるのかよくわからなかったので、Facebookでユーザーに聞いたり、自分たちで買ってきたものを出して反応を見てみたり。イラスト画集はよく売れましたね。面白いものだと、アニメの絵柄が印刷された缶詰の中にパンが入っているだけのパン缶という商品を売ってみたりもしました。
【田原】ほかには?
【亀井】がーんと売れた商品が2つあります。1つは、寿司ソックス。履くと普通の靴下ですが、畳んで丸めるとお寿司の形になるんです。おもしろいので桶の中に並べて写真や動画を撮ってFacebookに投稿したら、大きな反響がありまして。パーティーのプレゼント用だと思いますが、1人で200~300個注文してきた人もいたし、海外の料理番組で紹介されたりもしました。累計で数万個は売れてます。
ぬいぐるみのタグを取らない理由
【田原】もう1つは?
【亀井】アルパカッソというアルパカのぬいぐるみ。あるとき海外のユーザーから「アルパカッソは売ってないのか」と問い合わせがありました。といっても、僕はアルパカッソなんて聞いたことがない。調べてみたら、どうやらゲーセンにあるUFOキャッチャーの景品になっているぬいぐるみらしい。それを使った動画がYouTubeに投稿されていて、海外で人気になっていたのです。目ざとい人がその人気を知って偽物を販売していたのですが、ユーザーは「本物が欲しい。Tokyo Otaku Modeなら本物があるはずだ」と連絡してきたというわけです。
【田原】なるほど。海賊版が出回っていたんですね。
【亀井】海外の人たちは本物にこだわります。例えば人形を買っても、タグをつけっぱなしにしている人が多い。タグを取らないのは、面倒だからではなく、本物だという証し。中にはタグをシールでガチガチに固めて取れないようにしている人もいる。一種の血統書みたいなものになっています。
【田原】そのぬいぐるみはどれくらい売れたのですか。
【亀井】1万体以上です。後日、アメリカのアニメ系のイベントに行ったら、アルパカッソを大事に抱えながら歩いている女の子がいました。本当は白いんですけど、たぶん普段から連れ回されているのか、茶色になってた。日本ではわからなかったのですが、本当に人気があるんだと知って驚きました。
【田原】海外の人たちは、亀井さん以外のところから本物を買うことはできないのですか。例えばアマゾンとか。
【亀井】アルパカッソに限らず、Tokyo Otaku Modeで販売しているものはたいてい他のECサイトでも売られています。ただ、メーカーの許可を取っていないケースがほとんどではないでしょうか。僕たちはメーカーに確認をしたうえで販売しています。確認の作業はけっこう大変ですが、権利者を守ることについてはこだわってやっています。
【田原】偽物を売るのではないから、許可を取らなくても問題ないのでは?
【亀井】僕たちが何かのキャラを使ったオリジナル商品を企画するケースもあります。普段からきちんと許可を取ってやっていると、そのとき権利を貸してくださいと言いやすいんです。勝手にやっていると、「きみたちは普段無視してるじゃないか」と言われてしまいますから。
【田原】なるほど。オリジナルの商品も多いのですか。
【亀井】取り扱っているのは約3万種類あって、オリジナルは一部です。オリジナルはリスクが高いので積極的にできないところがある。いまは受注してから製作を発注するモデルや、クラウドファンディング型で注文が集まったら商品化するというモデルが中心です。