ラストワンマイル問題をどう解決するか

いくらアマゾンなどのネット通販との関係を見直しても、物流システムを効率化しても、取扱量が増え続ける宅配現場の負担を軽減する決定打にはならない。なぜなら「ラストワンマイル」、最寄りの配送センターから個人に荷物を届ける最終行程に課題があるからだ。宅配便の不在票を手にした経験は少なからずあると思うが、受取人不在などによって再配達されるケースは約2割といわれている。国土交通省が14年のデータをベースに試算したところ、再配達のために費やされる走行距離は全体の25%に及び、再配達によるCO2の年間排出量は約42万トン。スギの木約1億7400万本が1年間に吸収できるCO2量に匹敵する。また再配達にかかる労働力は年間9万人(約1.8億時間)に相当するそうだ。

国土交通省は「過剰な再配達の発生は社会的損失」としているが、17年現在、エネルギー、環境、人材、道路渋滞など、あらゆる面でロスが拡大しているのは間違いない。このラストワンマイルへの取り組みが宅配ビジネスの大きな課題であり、逆にいえばアマゾンは恐ろしく自動化した物流システムを自前で構築しながら、きついラストワンマイルだけは手を出さずに佐川急便やヤマト運輸に仕事を投げて賢く儲けているわけだ。

ラストワンマイルのコストをいかに下げるか。ドローンを使ったり、ロボットと自動運転車を組み合わせた省力化の実証実験なども行われている。宅配ボックスの活用も指摘されるが、宅配事業を十数年やってきた経験からすればあまり現実的ではないと思う。設置スペースの確保やセキュリティの問題など課題が多いからだ。駅やコンビニでやるにしても受け取る商品によっては制約が出てくる。

ラストワンマイルの課題解決を私は20年以上前に『新・大前研一レポート』(講談社)という本で提案している。何かといえば、ラストワンマイルの一元化である。全員でラストワンマイルの仕事を並行してやるから混み合って非効率になり、ブラック企業化する。配送車がCO2をまき散らし、あちこちの路肩に止めるから交通渋滞の原因になる。受け取る側からすれば、1日に何度も自宅の呼び鈴をキンコン鳴らされるのも煩わしい。

そこで地域ごとに配達公社、或いは協同組合を組織して一元化し、そこが一手に配達を担う。公社といっても官営組織という意味でなく、地域ごとに担当する業者を決めて、その地域のすべての宅配便をまとめて取り扱うのだ。郵便物や新聞や牛乳、折り込みチラシなどの配達もここが請け負ってもいい。スマホなどを活用して時間調整して、受取人が必ず受け取れるタイミングでまとめて配達する。ラストワンマイルの矛盾は20年前から予見されていたが、いよいよ業態の変革が社会問題化してきた今だからこそ、ヤマト運輸のようなリーディングカンパニーが音頭を取って、協同配達組織の実現を目指してもらいたい、と思う。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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