実は13年まではアマゾンの宅配をほぼ独占的に担っていたのは業界2位の佐川急便だった。しかし、宅配便の取扱量は増え続ける一方なのに、大口割引料金の適用でどんどん利益が出にくくなって、かつ宅配現場の負担が増大する状況に耐えかねて、佐川急便はアマゾンに配送手数料の値上げを要請する。ところがアマゾンとの価格改定交渉は決裂、佐川急便はアマゾンから撤退した。代わってアマゾンの宅配をヤマト運輸が請け負ったという経緯がある。アマゾンと決別した佐川急便は売り上げこそ減ったが、営業利益は逆に伸びて収益は大きく改善した。一方でアマゾンの仕事を取ったヤマト運輸は、宅急便の取扱量の約2割をアマゾンが占めるようになった。しかし大口法人顧客の仕事が増えても単価は安いし、仕事が増えた分は人件費負担も増えるから、営業利益は下がるばかり。財務以上に現場の業務がパンクに追い込まれて、いよいよ疲労困憊した労働組合から「荷物を減らしてくれ」と泣きが入ったのだ。
「クロネコヤマト」の生みの親、ヤマト運輸元社長の小倉昌男氏は、百貨店の配送業務を請け負っていた家業の「大和運輸」を独自の構想力で発展させて、日本の宅配便システムを次々と塗り替えてきた人物だ。小倉氏とはいろいろな話をしたが、陣頭指揮を執っていた頃はいかに郵便局をやっつけるかに情熱を燃やしていた。日本郵便は金の卵を産むガチョウだから上場まで守らなければいけないということで、日本政府はいろいろと規制のタガをはめてヤマト運輸以下の民間をいじめてきた。これに真っ向から立ち向かって、全国紙に意見広告を打ち、監督官庁相手に行政訴訟まで起こしたのだ。
「オレたちに年賀状を任せてくれたら、紅白歌合戦を見ながら書いた年賀状も元旦に間に合わせてみせる」と小倉氏はよく言っていたものだ。国と戦ってでも宅急便を一大事業にするという小倉氏の志は今のヤマト運輸にも受け継がれている。競争相手が「参った」と言うまでやめないのは会社の性分。だからアマゾンの仕事も取ったし、宅配便の47.5%を占めるまでになった。しかし天国の小倉氏が現状を喜んでいるかといえば、違うような気がする。もうちょっとリーズナブルな人だったから、小倉氏が経営トップなら無理難題を吹っかけるアマゾンとの関係も違ったかたちになったのではないか。
宅急便の料金を値上げするとなれば、アマゾンとの価格交渉は必須だ。佐川急便との約20円程度の値上げ交渉にすら応じなかったアマゾンとの話し合いが果たしてうまくいくのかどうか。現実問題、アマゾンの膨大な宅配便を捌ける業者は最大手のヤマト運輸以外にないわけで、力関係ではヤマト運輸に分があるという見方もできる。交渉が不調の場合、儲けにもならないし、現場負担を増大させているだけのアマゾンの仕事をヤマトが切り捨てる可能性も考えられる。本稿執筆時には「ヤマトがアマゾンの当日配達から撤退」とのニュースも入ってきた。