4人乗りの超小型EVをアジアで展開
鶴巻は、1962年、福島県喜多方市生まれ。82年に都立航空高専航空機体工学科(現在・都立産業技術高等専門学校)を卒業後、スズキに入社。スクーターのエンジン設計から、モトクロッサー(モトクロス用バイク)の車体設計などに携わった。
鶴巻自身も趣味でモトクロスに熱中し、国際B級ライセンスを取得、プロを目指していたが、事故によって十字靱帯を断裂し、25歳で引退した。
スズキで5年間スクーターのエンジン設計を経験、その後、10年間、モトクロッサーの車体設計に力を注ぎ、1997年にはトヨタ自動車と関係の深いアラコという車体部品メーカーに転職した。同社は2004年に車両事業をトヨタ車体に譲渡し、鶴巻も移った。
トヨタ車体で、初代コムス(COMS)という小型EVの開発に参加したことから、鶴巻はこの道に進んだ。2000年にコムスが発売され、2005年には愛知万博にトヨタが出展した未来型パーソナルモビリティ「i-unit」の車体設計にリーダーとして関わった。これを発展させた「i-real」が2007年の東京モーターショーで披露されたが、その開発にも参加した。
「トヨタでは自由に開発させてもらって楽しかったのですが、次第に4人乗りの超小型EVを作って、アジアで展開したいという気持ちが高まってきました」
コムスはスクーターの4輪車版というイメージで屋根はあるがドアはない1人乗り。i-unitもi-realも乗ると言うより「着る」というコンセプトのパーソナルモビリティだ。鶴巻は、ファミリーカーとして使える超小型EVを作りたかった。
そんなときに、鶴巻はSIM-Drive(シムドライブ)と出合った。電気自動車のベンチャーで、慶應義塾大学の清水浩教授が創業した会社だ。鶴巻はシムドライブならば自分の考える超小型EVができると考え、2012年に同社に移った。
シムドライブは自社の資金で開発するのではなく、参加する会員企業が協力し合って、技術や部品を共有する事業モデルだ。そこで、鶴巻は事業計画を練って、会員や投資会社にアイデアを示した。すると、TNPパートナーズという投資会社が興味を抱き、出資を申し出てくれた。また、会員の中からも経営者個人が出資したいと言ってくれ、ようやく夢が現実に向かって動き始めた。
ところが、シムドライブでは開発はできても販売まですることができず、結局、シムドライブを退職することになった。