現地生産で「タイの国民車にしたい」

水に浮くというアイデアは、鶴巻の母親のひと言から生まれた。母親は足が悪く、万が一、津波に襲われても「私は逃げない」と鶴巻に言った。

世界最小クラスの4人乗り超小型EV「FOMM Concept One」。

「東日本大震災では、車で逃げようとした人が大津波によって不幸にも被災しました。母の言葉を聞いて、水に浮く車があれば、命を救うことができると思ったのです。それに、タイでも水害が多く、水没車に保険がきかないので、水に浮く車があれば役に立つと思いました。実際、タイの人達は喜んでくれています」

実はConcept Oneは、タイで量産され、まずはタイ国内でのみ販売されることになっている。タイのプラユット首相は、タイをEVのハブにするため、EV普及を推進しており、EVバスも実証実験中だ。また、2015年8月にはEV協会も発足し、FOMMも会員となった。

「Concept Oneをタイの国民車にしたい」と鶴巻は言う。

実は、日本国内ではまだ超小型モビリティを公道で走らせるための法制度が整っていない。国交省では、道路運送車両法で規定されている原付・ミニカーと軽自動車との間に新たなカテゴリーとして超小型モビリティを約60年ぶりに制定しようと動いているが、まだ、そのロードマップが明らかではない。しかも、この規定では乗車定員が1~2人とされ、4人乗りは想定されていない。仮に道路運送車両法が改正されても、当面、Concept Oneは国内を走らせることができないことになる。

「そのため、当初から開発は国内、量産と販売は海外と決めていました。最初はインドネシアも考えたのですが、やはりタイは自動車部品メーカーも多いので、現地生産がしやすいのです。足回りとモーターは日本のメーカー製ですが、大部分の部品はタイで調達し、組立も現地で行います。タイの企業とジョイントベンチャーを設立し、販売開始初年度は4000台を販売目標としています」

バッテリーはリース方式も検討中で、バッテリー交換ステーションを設けて、充電済みのバッテリーと交換できる体制を整備する。バッテリーの不法投棄を防ぎ、リサイクルできるので無駄がない。リースには低価格版と標準価格版の2種類のメニューを予定している。現在、バッテリーメーカーと最新式バッテリーを開発中だという。

バッテリー交換ステーションは、タイの精油・石油販売2番手のバンチャク・ペトロリアム社と提携し、同社の持つ1000カ所のガソリンスタンドのうち200カ所程度に設置する予定で、まずは53カ所からスタートする。

2018年4月にはタイでの販売を予定、その後はマレーシアやインドネシアをはじめとしたアジア諸国や、欧州にも販路を拡大したいとしている。