花粉症は株価にほとんど影響しない理由

2013年3月のPM2.5騒動のときに投資家たちから物色されたのは、フィルタをつくる会社や、主に環境計測を行う会社でした。熊倉さんによると、デイトレーダーは活発に情報をやりとりしながら取引をするそうです。

「実際にそれらを売買していたのはデイトレーダーたちです。資産が億を超えているようなデイトレーダー同士はわりと仲がよく、スカイプなどで情報交換しながら売買しています。取引中は具体的な銘柄を口にしませんが、市場が閉じてから『今日動いていたのはあの銘柄だったよな』と確認しあうような会話は当たり前のようにしていますからね。PM2.5関連の銘柄が上がった日にも『儲かった』と話していたデイトレーダーが多かったので、『あ、みんな物色していたんだな』と思いました。

当時はアベノミクスが始まったばかりで、金融緩和の好影響を期待して、金融セクターや不動産銘柄などのテーマ株がよく物色されていました。PM2.5の報道も過熱していたので、そうした気配をいち早く察知し、関連銘柄をすぐに見つけて売買できた人は、それなりに儲けていました。

私は残念ながら売買できなかったのですが、デイトレーダーの知人では『神栄を3月にデイトレで買って、その日のうちに売却。それで100万円ほどの利益になった』と話している人もいましたよ」

あるテーマを想定して、「この銘柄が上がる」と見込んで株取引をする場合、世の中の動きを早く読み切ることが利益を出すカギになるようです。たとえば、PM2.5は誰も想像していなかったような状況でした。その問題が報道で取り上げられることで、人々の間に不安感や危機感が広がれば、一方で対策の気運が高まり、関連商品の売上が一気に増加、関連銘柄の株価が上がる……というサイクルが考えられるわけです。

翻って、花粉症シーズンに例年どおり「マスクがよく売れている」と報道されたところで、その時期に花粉が多く飛散すること自体はすでに広く認知されていますから、株式市場にも大きなインパクトは与えません。関連銘柄をあえて売買する人も少なく、株価も大きく動かないのです。

テーマによる株取引は、報道が出たときにいちばん物色されて、株価も伸びるもの。「決算の数字が出たときに『実際には業績にあまり影響がなかったね』とみなされて、売られることが多いのが実情ですね」(熊倉さん)。事実、PM2.5関連銘柄も株価こそ一時的に伸びたものの、実際の売上がそれほどでもなかったことがわかると、株価は軟調になってしまいました。

もちろん話題になるだけでなく、決算の数字で売上高が大きく伸びてくれば、株価はさらに上がっていくこともあります。テーマによる株の売買は「連想ゲーム」に似ています。話題になる事象を先読みできれば、簡単に儲けられます。ただ、適切なタイミングを見極めるのはかなり難しい。「風が吹けば桶屋が儲かる」という程度の連想では、うまくいかないようです。

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