こんなこともあった。太陽光パネルの材料を高値で買い付け大きな損が出た。150億円の投資だったが担当専務が独断で決済しており、社長や他の役員は知らなかった。去年の2月24日、ホンハイがシャープに出資する直前に約3500億円の偶発債務が見つかった(※1)。高橋(興三)前社長も一生懸命やっていたから、あれがなければこれほど大きな赤字にはならなかっただろう。いずれもガバナンス(内部統制)の問題だ。
今は300万円以上の取引をすべて社長の私が決済している。この半年で決済した件数は2000件に及ぶ。「社長がいちいち、そんな細かいことまでチェックするのか」と言われるかもしれないが、ホンハイではそれが当たり前だ。
私はテリー(郭台銘ホンハイ会長)の隣で26年間、働いてきた。半導体工場の工場長も5年やったし、テレビを売った台数はシャープより多い。カメラモジュールを扱ったこともあるから、NTTドコモやKDDIのこともよく知っている。
ガバナンス体制を強化したので、あんなことは二度と起きない。
〈解説〉日本ではよく「いちいち細かいことに口を挟む社長は小物だ」と言われる。しかし本当に優れた経営者は自分の会社のことを隅から隅まで知り尽くしているものだ。
日本航空(JAL)を再建した京セラ創業者の稲盛和夫氏は、JAL会長の在任中、毎月の業績報告会に提出される資料を赤ペン片手に舐めるようにして読んだ。エクセルで作られた資料には細かい数字が書き込まれていたが、稲盛氏はそこから「異常」な数字を見つけ出し、役員たちに厳しい質問を飛ばした。
最初の会議でJALは豪華な仕出し弁当を用意した。稲盛氏は「この弁当はいくらだ」と聞くと誰一人答えられず、稲盛氏は「自分が食べている弁当の値段もわからん人間に経営ができるか」と一喝した。