──この7カ月でシャープのどこを変え、これからはシャープをどんな会社にしていくのか。

まず手をつけたのは「不平等契約」の解消だ。シャープは長年、業績低迷が続いていたので、一部の取引先とはシャープにとって著しく不利な条件の契約をしていた。しかし今やシャープは売上高15兆円のホンハイ・グループの一員なのだから、不平等な契約は見直してもらわなくてはならない。1社ずつ私が行って、契約の改定をお願いしている。

先ほどの「社長と副社長の問題」は調達にも影響していた。液晶工場と太陽光工場が同じ部材を別々に仕入れているケースもあった。部門間のコミュニケーションが悪く横展開ができていない。これからはホンハイの購買力をフル活用して部材を調達し、原価を引き下げていく。

目指すのは「グローバルなIoT(モノのインターネット)企業」だ。これまでシャープは「日本の家電メーカー」だった。家電は家に帰ってスイッチを入れないと動かない。IoTはインターネットでクラウドにつながっているから、オフィスにいてもスマホで操作できる。「この製品はもうすぐ故障するからパーツを替えましょう」という新しいサービスもできる。ハードウエアとソフトウエアとクラウドが一体になったIoTのシステムを世界各国で提供するのが新しいシャープの姿だ。

先週、総務省の「第41回家電メーカー懇親会」という会議で、私はパナソニックの津賀(一宏社長)さんに「この会議の名前は正しいのでしょうか」と聞いた。自分たちを電機メーカーと呼んでいるようではダメだ。ITの活用度合いにおいて、すでに日本は先進国とは呼べないが、2020年には日本がIoTで最も遅れた国になっているかもしれない。

〈解説〉売上高15兆円の巨大EMS(電子機器の受託製造サービス)であるホンハイは、アップル、デル、ソニー、任天堂など世界中のエレクトロニクス企業と取引しており、各社の戦略をいち早く知りうる「黒子」のポジションにいる。そのホンハイがシャープ買収によって、自らのブランドで製品やサービスを提供する「役者」になろうとしている。

ホンハイ・シャープはアップルと組んでIoT時代の主役に躍り出るのか、それともアップルの対抗軸を目指すのか。郭会長は「東芝の半導体メモリー事業も買収したい」と語っている(※2)。ホンハイがIoT時代をにらんだ業界再編の台風の目になるのは間違いなさそうだ。

注1:2016年2月12日に提出された「第3四半期報告書」に債務の一覧が書かれていた。
http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/securities/pdf/122_3q.pdf
注2:3月1日、中国・広州で開いた液晶パネル工場の起工式の後、記者団に対し、「とても真剣に検討している。東芝の経営を支援し、資金を投入できる」と答えた。朝日新聞デジタル〈海会長、東芝の半導体事業買収に意欲 「真剣に検討」〉(2017年3月1日21時31分)。

【関連記事】
液晶のシャープ、転落の引き金を引いた成功体験とは
シャープが凋落した本当の原因がわかった
シャープ新体制のカギを握る新社長・戴正呉の可能性と限界
日本の家電メーカーは再び世界を席巻できるか
シャープの救世主か、破壊者か「郭台銘の素顔」