フェイクニュースの怖さはどこにあるか
インターネットを通じての消費者マーケティングの世界では、消費者が口コミや商品レビューなどを評価していく際に、対象のサイトやブログが匿名か実名なのかによって見方が大きく異なるのが特徴であると言われている。商品コメントを書いているブロガーが匿名だった場合、そのブログを読んでいる消費者は商品コメント自体の真偽を見極めようとする。その一方でブロガーが実名で商品レビューを書いている場合には、消費者はその相手が信頼できる人物であるかどうかをまずは見極めようとする。これと同じように政治マーケティングにおいても匿名なのか実名なのかで有権者が見るポイントが大きく異なるわけだ。
トランプがツイッターで発言している内容の相当部分は事実ではないとの調査も多い。もっとも、いったんトランプのことを信頼しているコア支持者層においては、もはや内容自体が事実か否かは論点ではなくなってしまっている。さらにはライアン会長が指摘していたことの中で、最近の有権者は政治のニュースをソーシャルメディアで見ることが多いということは、筆者としては大いに注目すべき点であると考えている。自分が信頼する友人がソーシャルメディアでシェアしていたマスメディアのニュースには注目する。ここにフェイクニュースの怖さがあるのだ。
スマホという通信手段を使って、なおかつソーシャルメディアを通じてニュースを見ることが一般的になっている米国において、トランプ大統領と主要メディアとの対決については問われているのは、「どちらが正しいのか」とか、「どちらがより支持を集めているのか」だけではもはやない。主要メディアはメディアの在り方そのものやメディアとしての新たなグランドデザインを再構築することが求められているのだと言えよう。
次回も引き続き、トランプ政権を巡るメディアの状況を通じて、メディアの在り方やグランドデザインについて考察していきたい。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。