金融の世界においては、ボラティリティーが高いほどオプション価値は高まる。日本においても、2017年はボラティリティーがさらに高まる1年になると覚悟し、自らのビジネスにおけるベースケース・ワーストケース・ベストケースに備えておくしか他に策はないだろう。世界は既に「ハイリスク・ハイリターン」の「商品」を購入してしまったのだ。リスクを取ってしまった以上、ハイリターンの場合には貪欲に吸収し、ハイリスクが顕在化してもいいように準備をしておくしか、この「ゲーム」における勝ち方はないのだ。

国のリーダーは、トランプのもたらすボラティリティーの高さが外交や安全保障においてネガティブな方向で実現されてしまうリスクを覚悟しておくべきである。これまでとはまったく次元の異なるリーダーシップが求められる可能性もなしとしない。

次世代は新大統領をどう評価するか?

トランプの主要政策が、経済やマーケットに与える影響を図のようにまとめてみた。

トランプの存在感や影響力は極めて大きく、戦略性が維持されたなかでその強みが発揮されたときのインパクトはまさに最大級である。トランプのボラティリティーの高さが、オプション価値を通じて実際のメリットとして実現することを期待したい。

最後に、今回の米国の大統領選挙において、ミレニアル世代(2000年以降に成人か社会人になった世代)は最終結果とは違う票を投じている。英国においても若い世代はEUからの独立に反対している。

真に多様性を受け入れることのできる若い世代がシニア世代と違う判断をしていることを考えると、トランプは最後の遺物的な大統領になるような気がしてならない。トランプをサポートする長女・イヴァンカが本当はどのような人物なのかはわからないが、実は分断は望んでおらず、本当は多様性を受け入れることを望み、この世代を担っていく次代の大統領になるような気もしてならない。イヴァンカは子息の中国語の英才教育も兼ねてベビーシッターには中国人も雇用しており、中国通としても知られている。父であるトランプを支えるその知見が対立ではなく融和に生かされることを願いたい。

複雑系に関する先駆的な研究者であるウィリアム・ロス・アシュビーは、「複雑な環境に対応することができるシステムとは、それと同じだけ多様性のあるシステムである」と言っている。人も組織も、多様性を受け入れることができるかどうかが、現在の変化の激しい時代に生き残っていけるかの生命線なのだ。

田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/
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