しかし、公正証書となると、一気に親の反応が鈍ることも多いのだという。「正式な書類に残す」という心理的なハードルが高く、公証役場に行く手間や費用を嫌ったり、公証人という第三者が介入することを拒否する人が多いのだ。それでも親に公正証書を作ってもらうには、本田氏が言う「自筆の遺言書の不安」や「公正証書がない場合のデメリット」を説くのがいいだろう。

費用は相続人2人が2000万円ずつ相続するならば、公証人手数料が2万3000円×2人分で4万6000円、遺言加算が1万1000円、用紙代が約3000円で、合計約6万円。自宅などへの出張の場合はほかに公証人への日当や交通費などもかかる。だが、相続手続きの手間や諸経費、あるいは遺産の分け方でトラブルになった場合の弁護費用が数十万円と考えると高くはないだろう。

井上さんも、公正証書にしてほしいと父にすすめたが、首を縦に振らなかった。またいつか話し合おうと考えていた矢先、父が脳溢血で倒れた。今も入院中で、ベッドに横たわる父はみるみるうちに衰え、気力を失っていった。

「数カ月でここまで老いるかと衝撃でした。元気なうちに公証役場に行けばよかったです」(井上さん)

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