社長の目指す本質を社員と共有する
海外に通用する高級ブランドを目指す道の途中で、しっかりと挑戦したかいがある成果を得るというのは、確かに大事な成果で、企業の足腰を鍛えるものです。それでもさらに、どんなに高価格になっても購入してくれる顧客が実際にいる海外の状況を、社長以外の社員も肌で感じる必要があると私は考えています。それについての守次社長の答えはこうでした。
「ハイポイントに出展していた頃に数人連れていき、見たもの、感じたことを残りの社員たちに話してもらったことがあります。現地を体験すると、やはり違います。休み時間にも会話の中で、体験を話すようになる。アメリカでの現場は、観光ではありませんから、厳しいんですよ。でも、その厳しさを目の当たりにすると、人間的にも成長できるし、私の考えもわかってくれるようになる。その波及効果は計り知れないです。だから本当は全員、連れていきたい。でも、全員連れていったら、製造が止まってしまいます。現状、ありがたいことに注文が多く、高い品質で仕上げられる人手が足りなくて。いつか皆を連れて行きたいなあ、とは思っているのですが」
“高い技術”より“スピード”をアピール
松岡家具製造は高品質なものづくりに対して、誇りを持っています。しかし、顧客に類まれな塗装技術や仕上げについてのアピールはしないそうです。それはなぜかというと、セールスポイントとなるのは、あくまでも「買いたくなるデザインや色」だからです。そういったところに高い技術をどんどん使っていくべきだと守次社長は言います。
「技術は魅力的なインテリアになる家具を作るベースにすぎません。高い技術を持っていると、“見えない部分”に施された技術について、つい説明したくなるのは技術に自信があるからで、気持ちはよくわかります。以前は私も説明していました。だけど、それは顧客にとって、それほど重要な情報ではないんですよね」
つまり、高い技術を押し付けても顧客にはそれほど響かないということ。しかし、技術に裏打ちされたスピードは顧客にとって魅力的な「技術」なので、良いものを早く作れるという情報は、大いにアピールしているそうです。
オンリーワンの物語で真のブランドへ
松岡家具製造のMATSUOKAブランドへの挑戦は、非常に夢があって、素晴らしいと思います。ただ多少、苦言を呈しますと、経験値で学んでいるのは素晴らしいのですが、ブランディングに対する認識がまだ粗く、基礎的な準備をしたほうが良いと思います。例えば企業の長所がわかりやすく説明できる広報体制が整っていないなど細かい点が気になります。
とはいえ、「家具界のロールスロイス」との評判を聞きつけたロールスロイス社が、世界の超一流企業のみを掲載して顧客に配る豪華な冊子でMATSUOKAを紹介するなど、短期間で着実にブランドとして力をつけています。現在、16カ国37社に販売網を拡大させている実績も評価できます。広島県府中市から世界のセレブリティの邸宅で愛される家具を作るブランド、というオンリーワンの物語で、MATSUOKAが日本国内でも選ばれる日がきっと来るでしょう。
「発掘!中小企業の星」は、成長を続ける優良企業を取り上げて、その強さの秘密を各界の識者が解説する、雑誌『PRESIDENT』の連載記事です。現在発売中の『PRESIDENT12.5号』では、福井県鯖江市の企業「西村プレシジョン」を紹介しています。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
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