ディベートとの出会いがターニングポイント

三宅義和・イーオン社長

【三宅】それはかなりレベルの高いテキストではなかったですか。

【松本】最近でもそうだと思うんですが、中3と高1の教科書のレベルには間違いなく大きなギャップがあります。英語のレベルが急に高くなる。確かにかなり難しい教科書だったと思います。でも、そんなにわからない単語があったら、何が書いてあるかは理解できない(笑)。入学早々にレッスン1で挫折して、中学時代から陸上競技部だったものですから、学校には走る練習だけのために通っていました。

【三宅】信じられません。しかし、そんな少年というか青年が、現在は英語を駆使して大活躍している。今、英語が苦手な中学生や高校生、そしてその保護者から見れば、すごい勇気を与えてくれる話ですよ。

【松本】勇気を与えられるかどうかは別にして、できない生徒の気持ちがわかるという意味では、教える立場になって考えると、それはメリットなのかなと思いますね。多くの英語教師は、他の教科より英語ができて、順風満帆で学業を終え教壇に立っているのではないでしょうか。私の場合は、英語そのものが好きというよりも、人と会話をするのが好きなのです。

【三宅】そうしますと、松本先生のターニングポイントはどこにあったのでしょうか。

【松本】実は、高校3年生の夏休みに大学生が英語で日米安保条約についてディベートするのをたまたま見る機会があって、それが私のターニングポイントになりました。ある種のカルチャーショックを受けたのです。というのは、「あぁ、英語というのはこうやって人と人が意見をやりとりするのに使えるんだ」と実感できたんです。しかも、自分と2つぐらいしか歳が違わない日本人の学生たちが、自分が知識すら持っていない分野について英語で議論している。

とにかく「Japan」とか簡単な単語しか聞き取れませんでした(笑)。けれども、真剣にディベートする彼らがとてもかっこよく見えて、「これをやりたい!」と痛烈に思いました。そこで、自分が大学でディベートができるようになるには、どういう力が必要か考えてみました。当時は自己紹介もろくにできない状態です。それなのに、英語で聞いて、すぐに英語で答えることを目指す。この場合、頭の中で訳している暇はないわけですよね。ですから、英語を英語で理解しなければなりません。そこで、とにかく英語に慣れようと、やさしい英文で書かれた物語やエッセイをたくさん読み、NHKの「ラジオ英会話」も聴きました。

【三宅】そここそがリセットでしたね。簡単な英文から入るというのはとても大切です。日本の英語学習では、やさしいものを馬鹿にしてしまって、なんか難しいものに手を出したがる傾向が強すぎるような気がするのですが。

【松本】そうですね。英語学習でつまずいてしまうのには、いくつかの理由があります。そのうちの1つが語彙レベルが高すぎる英文ばかりを読むということ。知らない単語が出てくる頻度が重要ですよね。それが少なければ、どんどん読み進んでいけます。だから、最初は1ページに見たこともない単語は、あっても1つぐらいのほうがいい。

もう1つ、内容に関する基本的な知識がないので、日本語の本のように速く読めない、ということもあります。そこで私は、最初の段階では内容を知っている童話などを英語で読みました。「イソップ物語」の英語版などです。これは結構読みました。そのときは基本的には音読しないで、黙読で、なるべく速く読むことを心がけました。するとある日、訳さないでも理解していることを実感できたのです。