弘兼憲史の着眼点

▼なぜ読売巨人軍と契約できたのか

有明に構えるドームの本社は倉庫を改装した無骨な建物。「仕事は戦い」という安田さんの考えを具現化した、要塞のようでした。

建物に入ると、無機質で近未来な雰囲気が漂います。オフィスと同じ建物内にはトレーニングルーム、ジャグジーやリラクセーションルーム、高タンパクの食事を提供するカフェ……、24時間居座ることができそうです。

今回の対談には、ドームが展開する「アンダーアーマー」のTシャツを着用していきました。アンダーアーマーの由来は「アスリートがユニホームの下に着て、戦うための鎧」。「U」と「A」を組み合わせたロゴのポロシャツを着用したスタッフが、社内で溌剌と仕事をする姿が印象的でした。

2015年1月から5年間、アンダーアーマーは読売巨人軍と総額50億円のパートナーシップ契約を結ぶ。(時事通信フォト=写真)

対談中、なぜ読売ジャイアンツと契約できたのかと尋ねると、安田さんはこう言いました。

「読売巨人軍の久保社長と話す機会があって、さきほどから弘兼先生に話したようなスポーツビジネスの概論を僕のほうから偉そうに話していました。ところが、久保社長は読売新聞の元記者で長年箱根駅伝などの取材を重ねていて、スポーツビジネスについてめちゃくちゃ詳しかった。僕は座学だけれど、久保社長は実践もしてきていて、釈迦に説法だった。ただ、自分の知識と考えは久保社長に伝わって、そこからはトントン拍子で話が進み契約を結ぶことになりました」

▼スポーツ、経営ともに因数分解が必要

現在は、読売ジャイアンツの商品開発に力を入れ、CMを積極的に打つなど、ブランディングの真っ只中のようです。高校生が「NY」と描かれたニューヨーク・ヤンキースの帽子をファッションアイテムとして取り入れているように、「YG」と描かれたアイテムを着用する人で街が溢れ返る日も、そう遠くはないかもしれません。

対談の終わり、安田さんにこんな質問をしました。

「アメリカンフットボールのチームのつくり方と会社経営は似ていますか?」

安田さんは「はい」と深く頷きました。

「スポーツは合理的なアプローチをしなければ結果が出ない。逆に言えば、結果が出ない人は合理的なアプローチをしていないのです。上下関係を必要以上に重んじたり、チーム構成のバランスを欠いていたり。勝つためには、自分たちに何が必要なのかを考えて、因数分解していく必要があります。それは企業の経営と同じ。優れたスポーツ指導者は、いい経営者になれると思います」

合理的で理知的な体育会系の経営者。安田さんを表現するならばそうなるでしょう。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 河西 遼=撮影 時事通信フォト=写真)
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