考え足りないから鬱になる。ストレスがたまる

考えるのが好きではない人は、「考えこむと、思い悩むことが増えるのでは?」というイメージを持っているのではないでしょうか。鬱になったり、過度のストレスをためる人は、考えすぎているように思われがちです。でも、これは逆。実際は考え足りていないから、落ち込むことのほうが多いのです。

考えないことが招く弊害を、4つ紹介しましょう。

ひとつが「拡大解釈」です。脳はインプットされた情報に似た情報を、瞬時に集めるようにできています。だから失敗して上司から怒られたら、「そういえばあのときも怒られたな」「他の上司からも説教されたぞ」と連想する。そして「自分は相当嫌われているんだ」と拡大解釈した結論を、短絡的に出してしまうのです。

2つ目が「自己関連づけ」。人は本能的に自分に関係があるように思考します。たとえばプロジェクトの成果が上がらなかったとき、誰も責めていないのに、「自分が役割を果たせなかったのが原因だ」と思ってしまう。

そして「べき思考」。すぐに答えを出せと促されると、「こうするべきだろう」「こうしないべきだろう」と、人は世間の規範になっている「べき」で判断してしまいがちです。自分の考えと一致するわけではないですから、結構ストレスがたまります。

最後が「マインドリーディング」です。「あの人は本当はこう思っているんじゃないか?」と根拠もなく勘ぐってしまう。これも疲れますよね。

この4つが、あまり考えていないときに起きる、特徴的なクセです。どれも時間をかけて考えたら、「一人の上司に怒られただけ」「プロジェクトの失敗は自分のせいではない」と思い至れることばかり。でも瞬時に答えを出そうとすると、さまざまなバイアスがかかるため、その結果、間違った答えに手を伸ばしてしまう確率が高くなります。

心理学者、臨床心理士 植木理恵
東京大学大学院教育心理学科修了。日本教育心理学会で最難関の「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を史上最年少で連続受賞。現在、カウンセラーおよび慶應義塾大学で講師をつとめる。著書に『脳は平気で嘘をつく──「嘘」と「誤解」の心理学入門』『人を見る目がない人』など。
(構成=鈴木 工 撮影=奥谷 仁)
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