誰でも“人馬一体”を実感できる新たな価値

スカイアクティブ技術を初めて搭載したCX-5が市場に投入されたのは、2012年2月のこと。このスカイアクティブ技術の開発過程では、Gベクタリングコントロールはマツダ開発陣の主なテーマにはなっていなかったようだ。実際にも、そもそも全社的な開発対象ではなく、クルマを統合的に制御するというテーマに興味を抱いた開発エンジニアの主体的な取り組みから始まっている。しかし、その開発のための取り組み方は、まさにスカイアクティブを開発したマツダの技術陣による部門の壁を越えた総合的な取り組みそのものだった。

『ロマンとソロバン』宮本 喜一(著)・プレジデント社刊

マツダは2012年以降に発売した“新世代製品群”を支える強力な武器として、ここ10年あまりにわたってスカイアクティブ技術を開発してきた。そしてそれは大きな成果を生み、ブランドイメージの向上にもつながっている。このスカイアクティブ技術の開発にあたって、マツダの開発陣の視線は、主に、エンジンやトランスミッションそして車体といったどちらかといえばハードウェアの発展・進化のほうを向いていたと言っても間違いではないと思う。

今回、このGベクタリングコントロールによって、彼らの視線は新たな方向をも向くようになった。つまりハードウェアを統合するためのマツダ流のソフトウェアの発展・進化だ。これは開発姿勢における大きな質的転換ではないか。

マツダが標榜して止まない“人馬一体”も、大きな転換点を迎えるのではないか。つまり、従来、運転技量の上手な人にのみ許されたきらいのある人馬一体感を、運転の“へた”な人も特別なシーンあるいは特別なクルマを運転しなくても、自分のクルマで実感できる可能性が広がったのだ。

技術の名称の意味はさっぱりわからなくても、実際にステアリングを握れば素人の誰もがその楽しさを実感できる。スカイアクティブ技術の先行きの可能性が広がり、マツダ車に新たな価値が生まれ、そして同社の販売戦略の大きな武器になったことだけは間違いない。

(文中敬称略)

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