マツダが「SKYACTIV」の進化を図る一連の技術開発の過程で、業界で初と言われる新技術を製品に投入し始めた。これは、ドライバーのステアリング(ハンドル)操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させ、タイヤの接地荷重を最適化することによって、動いている車体の横方向とタテ(前後)方向の加速度(G)をコントロールする、という技術だ。この技術によって、車体の自然でなめらかな走行ができる、言い換えればごく普通のドライバーでも、プロ並みの運転、コーナリングができるという。このマツダの新技術開発の舞台裏をレポートする。(後編/全2回)
SKYACTIVだからこそ可能になった新技術
この稿は必ずしも新技術「Gベクタリングコントロール」の考え方のロジックを具体的に述べるのが主な目的ではないので、その結果だけを紹介する。
マツダの車両開発本部の梅津大輔は瞬間瞬間に発生するクルマの駆動力を100パーセント、タイヤから地面に伝えるためには、タテGとヨコGの制御をどのような割合で組み合わせればよいかを示した次のような制御式を解明した。
Gx = Cxy × Gy
(エンジントルク = ゲイン[タテ・ヨコの比率]× ヨコGの変化)
タイヤが左右どちらかステアリングを切った方向に横滑りせず踏ん張って100パーセントの力を発揮するためには、エンジン側でタイヤが前後方向にも滑らず100パーセントの接地力が出るように加速減速をしてやればよい(つまりタテ・ヨコのGの最適バランス)、これはそのための加減速の制御の値を示す式だ。
カーブにさしかかったときに、制御する対象はエンジンのほうに限られる。ブレーキによる減速は避ける方が望ましい。なぜなら、それだけ推進のためのエネルギーが無駄に消費されるからだ。ステアリングの操作は、つまりヨコGの制御は、ドライバーの意志そのものであってクルマ側からは関与できないし、クルマ側からいたずらにこれをすると、ドライバーはクルマが自分の操作に干渉しているという違和感につながる。したがって、クルマ側でタテ・ヨコのバランスをとるためには、タテGを制御するしかない。つまり、この仕事のための制御は、エンジンに限られる、というわけだ。
そうなると、この式通りにクルマを制御して、プロのドライバー並みにスムーズにカーブを駆け抜けるためには、ヨコGに関与しているドライバーのステアリング操作の状態を絶えず検知しながら、ドライバーの意図を読み解く必要がある。これができれば、この制御式からタテGの制御の値が導き出せる。最適な制御ができれば、それが最適なクルマの挙動に結びつけられる。
(ただし、と梅津は言う。ドライバーの意図を読み解いてもエンジンの制御に対するエンジンそのものの応答性が十分でなければ、実際にこのアイデアは機能しない。実はスカイアクティブ以前のエンジンでは、応答性が十分でなかった。したがって、アイデアはあっても、なかなか現実が伴わなかった。ところがスカイアクティブのガソリン、ディーゼル両方とも、この制御に十分な応答性を発揮するという)
これを運転中のドライバー側から見れば、自分流のステアリング操作によって、なぜかクルマが最適な加減速をしてくれて、ドライバー自身、運転がうまくなったと感じる、ということになる。