マツダのロードスター(2015年5月発売)がこのほど「2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤー」(日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会主催)を受賞した。昨年のデミオに続き、2年連続でマツダ車が“最優秀”と評価された。マツダといえば今や、スカイアクティブという独自技術に注目が集まる。しかし、このスカイアクティブを世に浸透させるのには、エンジニアの努力はもちろんのこと、その努力を顧客に浸透させる販売・営業の力も見逃せない。そこには、スカイアクティブを生んだ技術革新と同質の販売革新に取り組む、マツダ独自の挑戦があった。そしてそれは今でももちろん進行形だ。
その実像を知るため、マツダの本社で販売・営業のキーマンに会った。
マツダ全体の販売領域の価値観に一貫性がなかった
「ブランドとは、生きざまですよ」
このように語る取締役専務執行役員・稲本信秀の目は、輝いていた。
稲本が国内営業本部長(就任当時、常務執行役員)になったのは、2008年4月。国内営業の実態に直接触れる立場になり、改めて、同じ企業とはいえそこにある文化の違いに驚くことになる。実は、稲本はエンジニアだ。1977年マツダ入社以来一貫して、生産、物流あるいは品質管理といった部門で経験を積んできていた。したがって、販売部門に配属されたのはこのときが初めてだったのだ。自分のよく知るエンジニアリング部門と販売部門の間には、想像以上に文化の隔たりがあり、それに稲本は今さらながら驚いた、というわけだ。この驚きがその後の販売改革へとつながっていく。
稲本は言う「驚いた、マツダ本社や販売会社をはじめ営業・販売領域に携わる人たち全員の価値観に一貫性が見られなかった」。
目の当たりにしたのは、トップが変わるたびに経営方針が変わる、そうなると、販売担当者はじめ販売の現場のスタッフには、迷いが生じるだけでなく、販売会社とそのスタッフは、本社の中央集権体制に組み込まれた指示待ちの立場だという意識で働いている、という現実だった。したがって、与えられた販売目標を達成するために、販売奨励金といった短期的に数字が上がる方策の類に頼ってしまう傾向が強かった。ただし、これはマツダに限ったことではなく、自動車の業界ではとりわけ珍しいということでもない現象だ。とはいえ、業績の苦しいときにこうした販売の手法に頼る文化があるために販売会社全体が疲弊している、そんな状況は一刻も早く改善しなければならない、いや、改善では足りない今こそ改革に取り組むべきだと、エンジニアである稲本は考えたのだ。
本部長就任後、半年の間に販売の実態をつぶさに確認すると、稲本はその年2008年の12月中旬、京都で開催されたマツダサミット(定期的に開催。出席者は販売会社の代表者。これにマツダの役員も参加)の席上で、この考えを述べた。
本部長の立場から現状を見ていると、顧客を大切にといつも提唱しているものの、結局は売りっぱなしではないか、もっとバリューチェーンで仕事をするべきではないのか。第一、マツダとしての“色”が見えない、販売の現場では言っていることに統一性がない。枝葉末節はともかく、基本については誰でも同じ意識で同じことが言えるような組織に生まれ変わるべきではないか。