長崎づくりはどうか。緊張しながら商談を進めると、尾上は最後に白紙の受注伝票を渡してこう言った。
「好きな数を書いていいよ」
「驚いたのと同時に、自分を信頼してくださっているといううれしさがこみ上げてきました。ただ、プレッシャーも強かったですね。大きい数字を書き込みたいけれど、ご迷惑をかけてもいけないですから」(厚地)
緊張しながら厚地が書き込んだケース数は「100」。過剰な在庫とならない数量を見極めてはじき出した数だ。
「うちは開店以来、キリンさんと協力し合って営業をしています。そのキリンさんが地元に目を向け、長崎という名がつく商品をつくった。最初に聞いたときは、すごい冒険をするなと思いましたが、これはおもしろいかもしれないと。うちがやらなくて、どこがやるのという感覚ですよね」(尾上)
県内最大級の居酒屋とはいえ、個人経営の飲食店1店舗で、100ケースの発注はビッグニュースだ。厚地がオフィスに戻って報告すると、支社内が歓声で沸いた。
「長崎づくりは普通のビールと違います。キリンとしての考え、長崎に対する思い、そして長崎づくりに携わった方々や支社の社員の気持ち。営業ではそれらを丁寧にお話ししました」(厚地)
真摯な姿勢は受注数につながり、結局、1人で合計400ケースを取り付けた。その中には、競合他社の生ビールを取り扱う飲食チェーンの100ケースも含まれている。支社全体での受注数も上がり、中瓶、缶ともに目標数字を20%前後上回る数となった。支社長の江田雄太はこう振り返る。
「長崎づくりのコンセプトを決めるためのワークショップでは、地元の方の話から長崎の魅力を改めて知ることができました。私も厚地も県外出身ですが、長崎への愛着がさらに深まり、もっとお役に立ちたいと思いました」
発売前日にはグラバー邸で前夜祭が催された。長崎づくりに関わった人や一般客120人を招き、長崎づくりの発売をみんなで祝福し合った。
こうした話が各都道府県で湧きあがっていると、キリン広報。