ビールがうまい! そう若者に感じてもらいたい。年々ジリ貧になっているビール市場を「どげんかせんといかん!」とばかりに各社が動きを本格化。営業現場を追った。
競合他社から奪え! 営業専門員が登場!!
小売りの営業はいかに売り場を確保するかの競い合いだが、飲食店の営業ではビールサーバーの争奪戦になる。業務用の樽生をどの社が入れるか。この争いも関西は熾烈だ。
昨年4月、アサヒの大阪統括支社に特別部隊が立ち上げられた。Naniwa Attack Team、略してNAT。競合他社を取り扱う飲食店に営業を仕掛ける専門チームだ。
メンバーは3人。その1人に、入社3年目の遊津拓人が選ばれた。生まれは兵庫だが、育ちは横浜の慶應ボーイ。髪の両脇を刈り上げた軟派な印象ながら、営業手腕は半端じゃない。他社の牙城を次々と落としているという強者である。
大阪市内に多店舗展開する「魚屋ひでぞう」もそのうちの一軒だ。扱う樽生は、創業以来、全店サントリー。代表の中本雄三が頑として意志を曲げないことは聞いていた。
どうしたらアサヒに替えてもらえるか。遊津が取った第一の作戦は、月曜から金曜まで毎日、開店する夕方5時に店に入り、カウンターで「スーパードライ」の瓶ビール2本を飲むこと。まずは中本との距離を縮めようと考えたのである。
「オーナーの前で飲むんですけど、何も話さない。ただビールを飲んで帰るだけです。通っていたら、何も言わなくても瓶ビールが出てくるようになり、ある日、オーナーから声を掛けてくれたんです」(遊津)
そこまで進めば次の作戦へ。共通の知り合いであるエンヤフードサービスの代表、曽我健二に援護射撃を頼んだ。
「遊津はおもろいで。一緒に飲んだって」という声掛けで、中本と酒を酌み交わすことができた。親交を深めたところで、初めて営業的な話を切り出したのである。
結果、既存店は覆せなかったが、「新店舗はスーパードライでいく」と約束してもらえた。それが今年7月にオープンした「立呑み 魚屋ひでぞう 相生橋店」だ。サントリーからも好条件が提示されたが、中本の気持ちは翻ることがなかった。
(左)アサヒビール大阪統括支社大阪支店、NAT所属の遊津拓人さん(中央)と、魚屋ひでぞう代表の中本雄三さん(左)、遊津さんを中本さんに紹介した、エンヤフードサービスの曽我健二代表(右)。「新店舗を出す際に、各社の営業マンが来て、ちょっとしんどいなと感じるタイミングがある。(遊津さんは)そういうときにうまいこと距離をあけてくれる。そうすると、あれ、なんで来ない? と、こっちから電話しちゃったり(笑)」と、曽我さん。
(右)既存店でアサヒは瓶ビールのみの扱いだったが、立呑み 魚屋ひでぞう 相生橋店で、樽生ビールが初めてアサヒに替わった。