同製品が市場導入されて数週間も経たないうちに事件が起きた。マインドストームのマイコンを作動させるソフトウエア・プログラムにハッカーが飛びついたのだ。ハッカーたちがマインドストームのソフトウエアのコード(ロボットの頭脳にあたる部分)を解読し、インターネット上に公開した。マインドストームのソフトの中身を誰でも知ることができるようになったのである。

コードがわかればロボットを制御するプログラムを改良し、ロボットをより思うように動かすことができる。また、マインドストーム・ロボットのプログラムを書く代替ソフト(例えばC++やJavaを使ったもの)を作ることも可能になる。そうした可能性に魅力を感じた世界中のハッカーがソフトを自由に改良し、さまざまな動きをするロボットを生み出していった。トランプ・ゲームをするロボットや入り口を人が通過したとき感知する警備ロボットなどが登場し、それらが愛好家のサイトやブログにアップされ世界中の人たちがネットで閲覧できるようになったのである。

MITのフォン・ヒッペルによれば同製品は社内の3人の開発者が7年間かけて開発したという。対してソフト改良に参加したハッカーは900人以上。レゴ社内で7年間に投入した量をはるかに超える社外資源が同一製品の改造・改良に参集したことになる。

こうした状況の中、レゴ社の経営陣は大きな英断をする。同社はソフトの改変を禁止するどころかマインドストームのソフト改良を積極的に支援する体制をとったのだ。プログラミングのソースコードをオープンにするだけでなく「ソフトを改良してもよい権利」をライセンスに盛り込んだ。さらに改良ソフトで動くマインドストームをユーザー同士で披露できる大会を開催したり、同製品の愛好者が集まる会合にレゴ社員も参加し、交流するようにした。その結果、マインドストームの利用者は拡大し、同製品は累計で約100万セットというレゴ社史上最大のヒット商品になった。